毎月恒例の。
今月もネタバレ注意。
【タイトルリスト】
・ウーマン・トーキング 私たちの選択(P)
(しんどい。明るみになった事件も然ることながら、こういうコミュニティが21世紀の今もまだあの広大な土地のどこかにある、その事自体がしんどい。タイトル通り、女性たちの物語ではあるが、その話し合いの内容自体は神学論争。彩度の低い田園風景が美しさやノスタルジーを感じさせるのだが、それ以上に、閉塞的で一部の人には息苦しいに違いない世界観をも表現しているようで良かった。解放感のある風景や構図なのにどこか息苦しい。ラストのモノローグ「あなたの物語はきっと違う」の『きっと』が胸を打つ。)
・マルドロール/腐敗(U)
(重厚だが、2時間超な上に心休まるシーンが基本的に冒頭しかないのでずっと疲れる。司法の機能不全と腐敗が絡む事件に個人が自身の正義感を信じて戦うにも限度があるわけで、というお話なので救いも無い。とはいえ主人公の『正義感』も中々危ういのだが、それでもマルセルを撃ち殺すまではまだ正義の縁に立っていたのかもしれない。ラスト、ヒンケルの頼みを「覚えていない」と断った時点で闇落ちか、などと考えたりした。)
△オビ・オバ 文明の終わり(T)
(分かりやすくディストピアSF。聖書がフィクション扱いな上に表紙しか残されてない(こないだのコミティアのAI使用関係の規約を思い出した)、とか、一応は『希望』の象徴だったに違いない飛行機は疾うに薄っぺらいシンボル(貨幣)に変わってた、とか、恋人が死んじゃった上に少年さえも死んじゃってるとか、もう絶望しかない。ところで、外の世界は本当に核の冬だったのだろうか。1年しか経っていないというのにこんなに絶望と狂気が蔓延するものなのだろうか。きっとそうなんだろう。自分の目で確かめたくはない世界。)
・ガガ 英雄たちに栄光あれ(T)
(これハッピーエンドなんだろうか。『右か左か、どちらかを選べ』と提示はするが真ん中は選ばせないあたり、なんとなく暗喩的というか。『オビ・オバ』もそうだが、選択肢はあるようでない。寡黙な主人公の言動はまさしく『ヒーロー』っぽくはある(少なくとも真性の『悪人』ではないと思われる)のだが、どこか歯切れの悪い感じがポーランド映画っぽい感じがする。しかしこれ、やっぱりハッピーエンドじゃないと思う。そこら辺もまたハリウッドには絶対に作れない類いの映画だな、と。)
・デビル(U)
(原案:M・ナイト・シャマラン。なんで観てしまったのか。相性悪いの分かってたのに。最後、男が残ったのは主人公の刑事(被害者家族)が赦したから、だと思ったのだが、もしかしてキリスト教ならあれは『告解』か『悔い改め』扱いで赦されるのか?それとも『自己犠牲の精神』か。いずれにせよ、始めから『悪魔』の仕業で始まり、『悪魔』以外あり得ない展開なので、誰が?的なサスペンス感はあんまり無い。『悪魔が諦めた=神が赦した』って話なんだと理解したが、キリスト教的な世界観を持つ方が観ると、また感じ方が違うのだろうな。)
✕デリシャス(N)
(いわゆる冗長なサスペンスものかと思ってたら、カニバリズムホラーなオチ。格差社会やら何やらを暗喩してるんだろうが、いかんせん話がだらだらと長くてつまらん、というか、そういうのあんま生きてないというか。途中、生肉つまみ食いしてたり、意味深な傷痕あったり、海辺でいきなり肉食ってるとか、まぁそれっぽいシーンはあったし、そもそもタイトルも『デリシャス』なんだけど。何はともあれ、なんかこう、サスペンスとしてもホラー?系としても微妙かな、って。)
△アンチグラビティ(U)
(ロシア産SF。映像は無論VFXってやつでCG感スゴいんだが、画作りのベースというのか物語の根底に流れる思想というのか宗教観というのか、やっぱどこかロシア(旧ソ)の匂いがする、というかロシア(旧ソ)臭がスゴい。タルコフスキーは「一緒にすんな」と怒るかもしれんが、そこがたまらん。英語じゃない映画観たくて選んだだけなのだが、割と好きなヤツだった。ところで、最後主人公を助けたリーパーって『ファントム』だと思ったんだけど違うのかな。ちなみに、そういう映画なので派手な異能力系バトルSFを期待してはいけない。タイトル詐偽です、念の為。そういや、押井守の『アヴァロン』にも似てるかもしれん。)
・宇宙戦争 次の世紀(T)
(虚構虚構虚構……全てが虚構のTVショウ。主人公のオッサンも正義感はあるのかと思いきや。とはいえ、やることなすこと裏目な展開にだんだん辛くなってくる。『オビ・オバ』や『ガガ』と比較しても虚ろで寒々とした街の風景に気分はどんどん沈んでいく。そもそも『火星人』の目的が分からないし、ホントに来襲してたのかどうかさえも『虚構』なんじゃないか、という疑いは拭えない。)
△ゴーレム(T)
(ポーランド暗黒SFの他3作と比較して、SFっぽくないというか気味悪さがどこか異質というか。映像の色味もたぶん意図的に黄色っぽくしてるのかな。オッサンの異様に白い顔やヒステリックな登場人物の描写に加え、画面全体の色味が余計に不気味な空気を際立たせている。ストーリーも分かるようで分からないのだが、根底に流れるディストピアな狂気だけは確実に存在していることが分かる。ラスト、男は何処へ消えたのか。ところで、『ゴーレム』ってユダヤの伝説と認識してたのだがポーランドではどんな捉え方されてるんだろうか。と思ったら、監督がユダヤ系とのこと。そうか。)
・レンタル・ファミリー(T)
(個人的にサーチライト・ピクチャーズの映画って、ヒューマニズムドラマにファンタジーなエッセンスを加えてかつ悲惨な状況は描きすぎず、な作品が多いと勝手に認識してるんですが、この作品もそうでした。あり得るかあり得ないか、で言ったら『あり得ない』シチュエーションとストーリー展開しかないのだが、それはそれで良いんじゃないか、と思えるし、ラストのショットも良かったと思う。)
△ひなぎく 4Kレストア版(T)
(『プラハの春』の前に作られた映画。ということは、鉄のカーテンの向こう側でも国全体でそういう自由が熟成され、かつ具体的に渇望されていた社会だったのだろう。同じ名前の女の子(つまり名無しとも言える)2人の行動は体制や社会や世界への反抗であったとも取れる訳だし、内容はアナーキー(さすが『ボヘミアン』)、オチもだいぶ辛辣で、まるで『プラハの春』が短命に終わったかように突き付けられて終わるんだけど、それを差っ引いても、オシャレでカワイイ女の子映画。ところで、日本語の『カワイイ』ってホントに便利な言葉だな。)
・オーロラの涙(T)
(切実さとかそこに人がいるのにそれでも孤独が迫ってくる感じとかそういうのがヒリヒリと侵食してくる感じ、主人公が無理してる表情とか、周囲とのどこかぎこちない会話の雰囲気とか、めっちゃ分かる。悲劇にはせず、悲嘆にも暮れすぎず、かといって無責任なハッピーエンドも描かない薄曇りの優しさ。まさにイギリス/スコットランドな労働者映画でしたが、労働者の国ももう労働者は移民で描くのが『リアリティ』なんだろうか。とか思ったりもしました。)
△君の見る世界をなぞる(T)
(フランス映画祭にて。ブルジョワジーの思春期坊っちゃんが肉体労働とウクライナからの労働者への恋心(よりもう少し切実)を通して自分なりに世界を理解しようとする話。家の建築シーンで始まり、ラストは戦場の廃墟にいる彼と遺跡(=廃墟)にいる主人公の対比で終わるのが象徴的。主人公の少年にとっての世界が彼の中でどう変わり、そしてそれによって成長出来たのかどうか、の答えはこの映画の先にあるのかもしれない。夏の光と影が眩しい映画でした。邦題秀逸。)
・バトル・オブ・チェルノブイリ-危険区域-(U)
(まず、ストルガツキー兄弟のSF小説『路傍のピクニック』があり、そしてタルコフスキーによる映画『ストーカー』があり、そこら辺を経てゲーム『S.T.A.L.K.E.R.』が、っていう流れとその内容とか世界観を理解してないとダメな気がするんだが。クレジットにそこら辺の情報なさそうだったので気になって解説サイトいくつか確認してみたが、ほとんど言及されてない。まさか二次創作映画なのか、コレ。私自身はゲームについてはその存在しか知らないのだが、少なくとも原作小説とタルコフスキーの映画版は名作であり、特に映画版はフェイバリットリスト上位なので色々思うところはあるが、それはともかくそこら辺の事情を知らない人が観たら『設定は美味しいのに中身は残念なC級映画』としか思わんだろうな。)
・ザ・キャビン 監禁デスゲーム(U)
(なんだかやり方や見せ方次第でうまいこと行きそうなのに全然出来てない感がスゴいというか。ジュリオはともかく、想像通りにフェデリコが実はマトモで、ロベルトが割と普通、結果ミケーレが一番ヤバい、というオチ。まぁ、そりゃ結婚したこととか友人たちには言えんよな……。つかアレッサンドロも別にいいヤツじゃないのはともかく、肝心の人間関係のドロドロの見せ方が微妙な出来。『冬の山荘』という設定もイマイチ活きてないような。しかし笑えないレベルでタイトル(邦題)詐偽の感も否めないのでなんとも……な映画。)
△湖の見知らぬ男(U)
(夏の昼の光と夜の闇、フランクとアンリ、フランクとミシェル、ミシェルとアンリ、そして何より生(性)と死の対比が見事で印象的な静かな映画。ゲイのハッテン場である湖のほとり以外を見せず語らず、まるで湖が外の世界と断絶されているかのように描き出す演出がいい。セクシャリティの表現に一瞬驚くが、それ以上に描かれる余韻(暗闇/暗転)の深みに引き込まれる感覚。無音のエンドクレジットもとても良かった。)
△ファイナル・デッドブラッド(U)
(この手のシリーズものによくある『まず型ありき』なんだけど、シリーズ通して、ストーリーがよく出来てると思う。最新作はタイトルの通り、血縁=家族がテーマの真ん中に据えられていて、それがよく出来てる、と思った。ブラッドワーズの秘密が明らかになるとともに、静かに退場していくのもまた良い。R.I.Pトニー・トッド・・・)
・悪なき殺人(U)
(タイトルは『悪なき』だが、じゃあそこに本当に『悪意』は無かったか、というとそういう訳ではないと思う。はじめは小さかったはずの誰かの欲望が転げ落ち始めたらもう誰にも止められない、ということか。冒頭、一瞬異質な始まりだが、そう収斂するのか、という脚本の巧さが際立つフランス映画。だがしかし、ジョゼフの狂気だけは質がちょっと違う気がする。)
△悪魔のいけにえ(U)
(怖い、というより不気味というか不穏というか。全体的に引きの映像やBGMの無さが不気味。夏の日差しや砂っぽく荒い景色、解放感があるようで無い不穏なショット、単純に『仲良し』ではなさそうな雰囲気を漂わせる車内の様子、そもそも皆ホントに普通の若者っぽい(車椅子のフランクリンを除き、キャラクターらしいキャラクターが与えられていない)、とか、殺人鬼?一家の説明のないヤバさとか、すべてが『テキサスの片田舎』という場所だからこそ成立している気がする。画面に漂う暑い日差しや風の匂い、特に腐敗臭がスゴい。レザーフェイスのチェーンソーダンスもヤバいが、主人公の女の子も狂気の向こう側に行ってしまったかのような絶叫の連続を経てのラストの泣き笑い。まさに『不穏』。アートワークも独特で思う程グロな怖さはなかったが、ひたすら不穏だった。)
△マーダー・ムバラク(N)
(最近、鬱系のもやもやなサスペンスばかり観ていたので気分転換にインド発のマーダーミステリー。ミステリー自体は複雑じゃないし、インド映画なメロドラマ+歌はお約束なのであるが、警視とその部下とか、関係者の雰囲気や役回りとか、彼らのやり取りとか、コメディなマーダーミステリーをきっちりやってると思う。こういう軽くてちょっと皮肉っぽい風刺も入ったマーダーミステリーはやっぱり良いな。)
△武器人間(U)
(とんでもなく直球B級映画だが、メカとかクリーチャー好きにはたまらん映画。基本的にB級なのだが、『シックスストリングサムライ』とかと同様、世界観やクリーチャーデザインへのこだわりが。『B級』としての矜持を感じる。個人的にそもそも設定が好みなのではあるが、怪しい地下室とか錆びた金属の質感もディストピア感があって良い。狂気と皮肉もたっぷり効いてるし。ただし、基本的にはモキュメンタリー/POVなんで、画面酔い及びグロ耐性は必須。しかし、この映画の良いところは、狂っているのはコミュニタリアニズムとナチズムだけでなく「キャピタリズムもな!」と狂人に叫ばせてるところだと思う。)
・扉の影に誰かいる(U)
(舞台劇っぽいサスペンス。心理戦が中心のストーリーだが、ちょっと盛り上がりには欠ける、というか、緊張感がイマイチというか。アンソニー・パーキンスがまんま『サイコ』のあの雰囲気、というのもまた。こういうミステリー好きな人向けだが、原作小説読むとまた感じ方が違うのかも。ジル・アイアランドキレイだな。)
・ダーク・ハーフ(U)
(スティーブン・キングが自身の作家経験を生かしつつ、多重人格もしくはイマジナリーフレンド的な存在をテーマに小説書いたらこうなるんだろうなぁ、という話。そのまんま。崩れていく男の特殊メイクとか、生きながら?スズメに啄まれるシーンはギミックも含め、ロメロの真骨頂のような気がした。)
・エスケープ・ルーム2:決勝戦 エクステンデッド・エディション(U)
(プレミアム外れてたので鑑賞。別に面白くはないのだが、ゾーイとベンのその後を確認せねば、と。結果、脱出ゲームの内容や参加者はともかく、2人が生き残るのはまぁ良かったが、3ありそうなんだけど、どうなんだろう。ところで、エクステンデッドエディションは劇場版とはストーリーもオチも違うらしい。もし3があるとするなら、こちらの続きになるのかな。)
・カタコンブ(U)
(同じパリの地下迷宮を舞台にした『地下に潜む怪人』が小難しいホラーミステリーアドベンチャー?なら、こちらはもっと単純なホラー。スキンヘッド集団とか狭くて暗い空間とか、リアル系な怖さやフランス得意の社会問題系で来るのかと思いきや、急にB級映画にありがちなナチス設定とゴア描写に切り替わる。最終的には分かりやすい普通のB級ホラー映画でした。ちなみに、1990年代初頭の時代設定は良かったと思う。3人組がどこか冴えない教室内の外れ者な雰囲気だったのも○。)
✕カタコンベ(U)
(同じタイトルの映画がもう1本あることに気付き。というか、どう考えてもメンヘラで精神安定剤漬けな妹に仕掛けるドッキリとしてはやり過ぎとしか思えないので、姉たちは自業自得なんじゃないか、というか姉とその一派がクソにしか思えないのだが、せめて姉と妹がどんな生い立ち/人間なのかくらいはモノローグでもいいから説明してくれた方がこういう話の場合は説得力とかを持たせる意味でも良かったんじゃないか。『地下に潜む怪人』『カタコンブ』の方がホラーとしても、舞台を楽しむ上でも面白いかと。ところで、製作年代を考慮しても、個人的には音楽が正直微妙・・・)
【総評】
旧共産圏、特にその時代に作られた映画はその政治や社会システムをある程度咀嚼した上で観ないといけないと思うし、そういう意味では単なる娯楽にはなり得ないとも思っているのだが、とはいえ、旧共産圏の映画やSFってやっぱ良いよな。チェコ映画傑作選も楽しみ。
【凡例】
☆:めちゃくちゃ好き。オススメしたい。
△:好き。人によってはオススメする。
✕:・・・
・:特に薦めないけど、悪くはないと思うよ?
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