「おい、新人。
寝んな。」
ホルマジオは助手席で俯くようにして寝かけている新人の頭を、呆れたような表情で軽く小突いた。
「新人の癖に余裕だな。」
――暗殺チームに流れてくる奴なんて、自分も含めて、ロクな奴じゃあない。
ホルマジオが前のチームでやらかして今のチームに流れ着いてから5年近く経ったが、その間に同じようにやらかしてここに流れてきた若い奴らは、結局1年もしない内にそのほとんどが死体になった。
ターゲットに返り討ちに遭った奴もいたし、裏切り者として処置した奴もいた。中には現状を悲観して自殺したバカな奴までいた。
この5年間で残ったのは、自分と同期のソルベとジェラート、その少し後に来たプロシュートと、先月晴れて新リーダーとなったリゾットだけだった。
さて、コイツはどうなるだろうか、と、ホルマジオは胸ポケットからタバコケースを取り出しながら、眠そうに眼を擦る新人の横顔を盗み見る。
「おめぇは何してここ来たんだよ?」
ターゲットがここに現れるまで、まだ時間がある。
ホルマジオは暇潰しのつもりで、咥えたタバコに火を点けながらそう問い掛けた。
この青白い顔をしたガキはチームの古株であるソルベとジェラートが連れてきた、とプロシュートから聞いていたが、それ以上の情報はなかった。
朝方に2人が少年をアジトに連れ帰ってから1時間もしない内に、揃って出張に出てしまったのだ。
挙げ句、リゾットも急な仕事で不在。彼らが戻るのは2日後になる。
プロシュートが、ソルベとジェラートがアジトを出るその瞬間まで喚き散らして(ホルマジオがアジトにやって来たのはこのタイミングだった)、やっと手に入った情報は、彼が『スタンド使いである』という事と『法律上、酒もタバコも出来ない未成年である』という事だけだった。
ぶちギレたままのプロシュートと新人らしい謎の少年をアジトに2人きりにする事をさすがに見かねたホルマジオは、仕方無しに彼を仕事に連れてきた。
死んだらそれまで。
そもそも大事な『新人』なら、拾ってきたソルベとジェラートが連れていくべきであり、それで2人に文句を言われる筋合いなど無い。
それにスタンド使いという事ならそれなりに使えるかもしれない、という打算も働いた。
ソルベとジェラートが連れ帰る位には、有用なスタンド使いなのだろうと踏んでいる。
「……何もしてねぇよ。
そもそも俺、ギャングじゃねぇし。」
投げ掛けられた疑問に退屈そうな声で答えたその内容は、ホルマジオの想像の斜め上を行く内容だった。
「は?」
「あの2人が、スタンドっていうのか……?
よく分かんねぇけど、ソレを連れて人殺してるとこ見たんだよ。
ただ、そんだけ。」
不健康なまでに白い肌と、そんな顔色とは正反対に見える艶やかとした長い黒髪を持つ少年は、ぶっきらぼうにそう言ってバックミラーに視線を向けた。
「……よくあの2人に付いてきたな。」
「あったかい飯食わせてくれるし、寝るとこねぇなら柔らかいベッドもあるからって……。
まぁ、オレ殺されるのかな、とは思ったけど、逃げ切れる気もしなかったし。」
少年は少し訛りのあるイタリア語で訥々とそう話したが、アジトに柔らかいベッドなんか、無い。
あるのは安くて薄っぺらいマットレスを乗せた、少し黴臭い仮眠用のベッドだけだ。
ソルベとジェラートの吐いた適当な嘘と、それが嘘だと分かっていて2人に付いてくる少年の無鉄砲さに内心で呆れつつ、紫煙をゆっくりと吐き出した。
紫煙越しに鋭い目線で少年の横顔を見つめる。
ホルマジオが少年の説明に呆れたのは本心だが、それ以上に、ホルマジオには『人を殺してるとこ見たんだよ』というセリフが引っ掛かっていた。
昨日の彼らの仕事は『隠密に事を運べ』という指示付きだったはずで、根っからの『職業、暗殺者』でもあるあの2人がスタンド能力を見られるどころか、手に掛けるその瞬間を目撃されるなんて有り得ない話に思えた。
目撃者がスタンド能力者だろうが、不幸な一般人だろうが、ついでに殺して終わらせる。
あの2人が殺さなかったのなら、それなりの理由があるはずだ。
もしくは、ただ単純に殺せなかったのか。
あの2人が。
ホルマジオが自分の思考に耽った、その一瞬だった。
ふっ、と違和感を感じて、ホルマジオが顔を上げる。
「これが俺の……、あんたらの言うスタンドとかいう、ソレの能力。」
ホルマジオの見た世界は左右が反転していた。