二人だけの秘密

最近、鈴木の姿を見ないな、と思ったら、黄泉だか蔵馬だかの依頼で何かの研究をしているようだ。死々若丸曰く、『少なくとも一週間は『研究室』に籠りっきり』らしい。
その情報を仕入れたのはつい数秒前のことなのだが、酎としては、その事実を知ったところで――仮にそれが事実でなかったとしても――、ここにいない鈴木にも目の前の死々若丸にも、言いたいことは特になかった。
酎の「お前もよく付き合うな」という、呆れともボヤキとも同情とも取れないことのない、特別感情の籠っていない一言に対する死々若丸の答えは、彼の無表情と『これが『最後』だがな。』という言葉だった。
その答えが彼の真意かどうか、酎には分からない。
きっと、その答えを知るのは当事者でもある鈴木だけなのだろうが、冗談のようにも本気のようにも聞こえたその答えに、重ねて何かを問うつもりはなかった。
もし鈴駒がこの場にいれば、あのガキなら言わなくてもいい何かを言い出しただろうが、こういう事は当事者間の問題なのだから、周囲がとやかく口を出すような問題ではないのだ。
ヤブヘビ、という言葉もある。
とにかく、余計な事に自ら首を突っ込むべきではない。
彼が何処に向かっているか、など、いまさら確認する必要もないのだ。
酎は「ふぅん」と曖昧な言葉を返して、そのまま死々若丸の横を通り抜けると、縁側の端の一番日当たりの良い場所にどっかりと座り込んだ。
死々若丸はそんな酎の背中に「ふん」と言って背中を向ける。
どこからか甘い香りが漂ってくるが、近くで臘梅でも咲いているのだろうか。冬の庭のどかな光景に、酎は少しだけ退屈そうに欠伸をする。
ちょうどそのタイミングで、縁側の向こうから鈴木が歩いて来るのが見えた。
死々若丸も気が付いているだろうに、鈴木に声を掛ける様子はない。鈴木の方も、向かってくる死々若丸にも縁側で日向ぼっこをしている酎にも声を掛ける様子がなかった。
もしかして研究がうまく行ってないのか、その表情はどことなく不機嫌そうにも見えるが、酎はそれを判断しかねた。
とにかく下手に声を掛けるのはやめておいた方が無難だろう、と考えつつ、それとなく、鈴木と死々若丸の様子を窺う。
ふたりは無言のまま、縁側を歩く。
ふたりがすれ違う。
すれ違い様、一瞬だけ小指を絡めて、すぐに離れていく。
言葉は交わされなかった。
縁側には静かな空気が流れていて、季節の割には冷たい風が吹くこともなく、穏やかな日差しの温もりに満ちている。
実際のところ、ふたりが『どういう』関係なのか、酎には知る由もない。
どんなにありったけの言葉を尽くしたところで、ふたりのことを『表現』できない気もしている。
酎はふたりのその動作に気が付いていたものの、やはり無言のまま、ごろりと横になり、静かに目を閉じた。