Please, Don’t call my name.

「クリストフ君。」
「……」
「クリストフ君。」
「……」
隣の席の人物に向かって、ピップがもう一度声を掛けようと口を開いたタイミングだった。
「ク……」
「うるせぇ。」
敵意剥き出しの表情で振り返るモールにピップは少しだけ、びくり、と肩を震わせて、でもやっと振り返ってもらえたことに安心したような顔をした。
「その名前で呼ぶな。」
モールは吐き捨てた。
普通のクラスメイトならば、彼のことは『モール』と呼ぶ。『クリストフ』と呼ばれた彼がキレるのを恐れるのだ。
苛立ちを隠さぬモールに対して、ピップは心底不思議そうな、キョトンとした顔であっさり言い放った。
「でも……、クリストフ君はクリストフ君ですよね。」
「……」
モールはそれ以上何も言わなかった。

*****
「クリストフ君。」
振り向き様、間髪入れずに突き出された拳をさらりと躱して、グレゴリーはニヤリと笑った。
「物騒だな、モール。」
モールの舌打ちを笑顔で流して話を続ける。
「ピップにはそう呼ばせるのに、僕には呼ばせてくれないのかい?」
「うっさい、変態。」
モールはそう言い放って舌打ちをして、その場を立ち去ろうとした。
「あぁ、待ってくれ。」
グレゴリーがその後ろ姿に声を掛ける。
「おいしいカフェを見つけたんだ。
 コーヒーを飲みに行かないか。」
モールの横に並んで肩に手を掛け、爽やかに笑いながら話しかける。
「フランス人はカフェが好きだろう。」
モールはグレゴリーを睨み付けた。