冴え渡るような警鐘

ふと開いた目に始めに入ったのは煙草の小さな火だった。
「……それ、美味しいの?」
ふいに掛けられた声に少しだけ驚いたように、刃霧が振り向く。
と同時にさりげなく差し出されるミネラルウォーターのボトルを受け取りながら上半身を起こして、キャップを開けようとした動きを止めた。
キャップがない。
が今さら自分のことを毒殺する理由など彼が持ち合わせている訳がないし、仮に殺す理由があったとしても毒を使う訳がない、と思い直して、御手洗はそれに口を付けた。
口に含んだまだほんのりと冷たい水をゆっくりと飲み下して、世界の様子を窺う。
薄暗い部屋の窓の向こうはいつの間にか日が沈んだ後で、蝉の鳴き声だけが昼の名残を惜しむように響いていた。
腹は空いていない。けれど、刃霧が『飯を食う』と言うのならそれに付き合っても構わない。
そんなことをぼんやりと考えながら、御手洗は刃霧の方へ振り向いた。
室内を薄く漂う紫煙の香り。
「で、それ美味しいの?」
灰皿に灰を落とそうと刃霧が煙草を持ちかえた瞬間だった。
御手洗はその煙草を刃霧からひったくるように手に取り、咥え、一気にそれを吸い込んだ。
その途端、薄暗い室内に盛大に響き渡る御手洗の咳き込む声。
刃霧は無言のまま御手洗の背中を数回、とんとん、と撫でて、何事も無かったように煙草を自身の手に取り戻す。
「……美味しくないじゃん。」
しばらく咳き込んでから恨めしそうに見上げてきた御手洗の目を、刃霧は呆れたように見つめ返しながら煙草の紫煙をゆっくりと吸い込んで、「そもそも美味しいなんて一言も言ってない。」と優雅にそれを吐き出した。