SS:原作銀土

巡回中に万事屋を見掛けた。
相手も気が付いたようで、土方の方を一瞥するも、特に罵詈雑言を掛け合うでもなく、静かに通り過ぎた。
その表情は何時もとそう変わらない。
町の喧騒も、往来の暑さも、何時もと変わらない。
変わらないが、土方は何か違和感を感じたような気がした。
彼に何か声を掛けなければならない気がして、立ち止まる。
すれ違い様、一瞬見えた彼の表情は何時もと変わらないようだったが、何かこう、奥底に決意を秘めたような、定めたような目をしていたようにも見えた。
彼は何でも一人で背負おうとする男だ。
またきっと、大きくて、重くて、しんどい何かを抱えているんだろう。誰にも伝えないままに。
土方はそう思って振り返ると、その背中に声を掛けた。
「なぁ、万事屋。」
銀時が振り返るのを待って、また続ける。
「互いに落ち着いたら、海にでも行かねぇか。」
それは顔を会わせれば喧嘩ばかりしていた2人には、似合わない約束だった。
銀時は一瞬驚いたように目を丸くしてから、無言のまま、でも確実な意思を持って、合意するように目を細めた。

ふと夜中に目が覚めた。
土方は半身を起こして、暗闇に目を慣らすように2~3度瞬きをする。
眠りの中で懐かしい思い出を夢に見ていた。
はっきりとした輪郭と湿度を持った記憶だった。
チリチリと、肌が焼けるような日射しの感触も未だ覚えている。
あの日以来、万事屋には遇っていない。
妙に覚醒した頭を少し振って、暗闇に目を凝らす。
何故あの日、あのまま通り過ぎることが出来なかったのか。
何故あの時、万事屋にあんな約束を持ち掛けたのか。
そして、何故今さら、あの日のあの約束を思い出したのか。
自分でもよく分からなかった。
すれ違い様、万事屋のあの表情を見たとき、あの一言がただ衝動的に口を衝いた。
ゆっくりと呼吸をする。
自分の呼吸音と鼓動だけが耳に響いた。
あぁ、そうか。
土方は急に合点がいって、ふぅと溜め息を吐く。
あの約束は万事屋のためでなく、自分が生きるための約束だったのだ。
あの約束が果たされるかどうかなど、分からない。
万事屋が今どこで何をしているのかなど、分からない。
そもそも彼があの約束を覚えているかどうかさえ、分からないのだ。
それでも、あの約束がある限り、自分は「生きよう」ともがき続けるだろう。
土方は暗闇のなかで、「生きなきゃ、な。」と小さく呟いた。