all in breaks this world.

ふと顔を上げた先に見覚えのある少年の後ろ姿が見えて、刃霧は足を止めた。
空はどんよりと曇っていて、一雨来そうで来ない、なんだか妙な緊張の糸がそこら中に張り巡らされているような、そんな空模様の午後だった。
土曜の昼下がり、刃霧は1人、特に目的もなく街中を彷徨いていた。
仲の良い友人もいないし、1人で困ることもない。
むしろ1人の方が面倒もないし、気楽で良かった。
数ヶ月前には共に行動する人たちもいたが、だからと言って、彼らの事を『志を同じくした仲間』という訳ではなかったと思っている。
結局、自分たちは仙水さんにとって、ただの駒ですらなかった。
仙水さんは負けて、彼とはその後、逢うことも話すこともなく、そのまま、全てが終わった。
あっという間に全てが終わってしまった。
仙水さんの「正義」が彼らにとっての「悪」だった、ただそれだけの事で、そして、そういった事情を「そういう事だ」と受け流せないほど、刃霧は子供では無いつもりだった。
全ては自分の知らぬ内に終わり、自分は何事もなかったかのように、あっさりと日常に帰ってきた、ただ、それだけ。
もしかしたら、あの人はそうなる事なんか、全て見越してたんだろう、と今では思う。
俺は何も知らず、ただあの瞬間、あの非日常の中で高揚していただけ。それだけが、確かだった。
それはきっと、少し前を歩く彼も、最後までまともに話すことのなかったあの少年もそうなのだ、と思う。
ただ、あの医者だった男だけは違うかもしれないが、もはや確かめる方法などなかったから、どうでも良かった。
手に持っていた炭酸水を飲み干して、視界の隅に見えたコンビニのゴミ箱に投げ捨てる。
彼と2人きりで話した事など一度もなかったが、興味はあった。
いつも薄暗い部屋で、憂鬱そうな、この空のように今にも泣き出しそうな、そんな表情の横顔ばかり見ていた。
他の顔を見てみたいと思っていた。
明るい場所で話をしてみたいと思っていた。
今も、その興味は心の奥でまだ燻っている。
刃霧は一歩踏み出そうとして、一瞬、躊躇した。
声は掛けないのが正解なんだろう、と思った。
それでも声を掛けてみたい、とも思った。
だが、そういった感情を「そういうものだ」と受け流して、その後ろ姿を見なかった振りを出来るほど、刃霧は大人でも無いつもりだった。
刃霧は欠伸を噛み殺すと、退屈を踏み潰すようにゆっくりと歩きだした。