03.神谷

あぁ、まただ。
2人で話しながら、一瞬だけ逸らされた刃霧の視線に気が付いて、神谷はそう思った。
2人で話している時、基本的に彼は相手の目をじっと見つめているのだが、今みたいに、急にふっ、と視線を外す時があって、大体そういう時は、彼の視界のどこかに御手洗がいる。
今も、刃霧が視線を向けたその先には御手洗がいた事を、神谷は気配で察していた。
それは本当に一瞬の事で、刃霧の様子を注意深く見ていないと気が付かないくらいなので、おそらく見られている御手洗はおろか、もしかしたら、刃霧本人も自覚していないかもしれない、と思っている。
神谷と刃霧が会話するその背後で、ボードゲームでも始めたのか、天沼と御手洗、巻原の声が聞こえ始めた。
目の前の刃霧は疾うに御手洗から視線を外して、神谷の目をじっと見つめているのだが、この少年は何故あちらの輪に入らず、ここで自分と大して面白くはない会話を続けているのか、ふと神谷は気になった。
年齢的に考えれば、彼はあちら側にいる方が相応しいだろう。
だが、刃霧の年齢や性格から考えて、あちら側にうまく馴染む事も出来ないだろうとも思った。
御手洗に対する感情も、きっと持て余した末に、「不要なものだ」と切り捨ててしまうに違いない。
それが何なのか、答えを出そうとする事もなく。
クラスメイトや周囲の大人たちのように日常を何となくやり過ごす道を選ぶ事も、御手洗や天沼との新しい関係性に馴染もうとする道を選ぶ事もしない彼に、神谷は責めるつもりもなければ、ましてや説教するつもりもない。
彼がそれらを選ぼうとしないのは、おそらくは、彼くらいの年齢の少年特有のニヒリズム的なものに起因するのだろうが、神谷はなんとなく憐れみを覚えた。
それは刃霧に対してだけでなく、御手洗にも天沼にも同じように感じている。
彼らの日常も将来も、まだ明るく希望に満ちていて良いはずなのだ。
それなのに。
こんな能力を目覚めさせられた上に、こんな場所で世界の終わりを夢見るなんて、彼らの『今』がとても哀れなものにも思えてきて、神谷は俯くと、刃霧の視線に構うことなく、自嘲気味に笑って頭を振った。
一瞬、刃霧の戸惑ったような視線を感じたが、神谷は気付かなかった振りをした。
そんなものは馬鹿馬鹿しい感傷に過ぎない。
自分には必要のない感情だったはずである。
それに、そんな感傷に浸ったところで、どうせあともう少しで、この日常は終焉を迎えることになる。
その場に刃霧や御手洗、天沼がいるかどうかなんて、神谷の知ったことではない。
それどころか、自分自身が立ち会えるかどうかすらもどうでもいい、と、神谷はそう思っている。その思いは、この計画に参加を決めた時から揺るぎない。
だが、もし。
もし、彼らに未来があるのなら。
普通の少年として日常の続きを生きていければいい、と、柄にもない事を思いながら、神谷はゆっくりと瞬きをした。