13.白銀の瓦礫の上に立っている

さぁさぁさぁさぁ…
雨が鳴る。
山崎は土方の居室の前の縁側で、ふと立ち止まり、空を見上げた。
強くはないが確実に地面を濡らしていく雨に、小さな溜め息を吐く。
「なんだ。」
障子の向こうから土方の短い問い掛けが投げられ、山崎は少しだけ慌てながら、「失礼します。」とその戸を開いた。
「報告書です。」
そう言って土方の横に行くと、文机に報告書と湯呑みを置く。
手元の書類に何か書き込む動作は止めないまま、土方は横目でチラリと確認した。
山崎が続けるのを待つように、無言のまま、筆を動かす。
「鬼兵隊の、その後の動向です。」
「そうか。」
土方は顔を上げないまま、ちらりとその報告書に視線を寄越しただけだった。
「鬼兵隊の動向を追え」なんて命は下していない。
残党が事を起こす可能性もないだろう、と土方個人はそう思っている。
山崎が独断で勝手にやった事ではあるが、咎める気にも問い質す気にもならなかった。
『なれなかった』と言う方が正確かもしれない。
この報告書も、目を通す日は来ないだろう。
土方はそう思ったし、山崎もそれを判っているような気がした。
「・・・動きはないだろう。
 お前もそう考えてるんじゃねぇのか?」
土方は静かに問い掛ける。
山崎はただ困ったような表情をして笑ってから、
「そうですね、でもまぁ一応。
 大体、最近暇すぎて、体が鈍っちまいますよ。」
いつものように軽い口調でそう続けた。
「ふん。」
土方は不満そうな顔をして、煙草に火を点ける。
顔を上げ、雨音に耳を澄ますように目を細めた。
「今日も雨、か。」
「しばらく雨が続くみたいですよ。
 じめじめしてカビでも生えちゃいそうですね。」
『どこに』とは言わず、山崎は溜め息を吐いた。
山崎の言いたい事は、土方も大方、分かっている。
そしてそれは、土方が抱えている思いと同じであろうことも。
いつものように上手く取り繕うことが出来ない気がして、能面のように感情を押し殺す部下の顔を正面から見ることが出来なかった。
心なしか、雨は先ほどより弱くなってきているような気がした。
この雨のように、少しずつ、でも確実に、この国と自分達を取り巻く環境は変わっていくのだろう。
「雨はキライだ。」
部下の本心を聞けない代わりに、そう紫煙と共に吐き出した土方の呟きは、静かな部屋の湿度にぼんやりと霧散した。
山崎は何も言わず、ただ、障子の向こうの雨の降る庭を想像して、目を伏せた。