ヘッドライトが暗闇を切り裂くように走り抜けるのが視界の隅で見えた。
波打ち際ギリギリのところで座り込みながらぼんやりしていると、波の音に混じって、ぎゅっぎゅっと砂地特有の足音が近付いてくるのが分かった。
この音はタケシじゃない。
三井が気怠そうに足音の方に顔を上げると、予想通り、竜が立っていた。
その口に咥えたタバコのお陰で、暗闇の中でも、かろうじてそれが竜だと判別出来る。
億劫そうな口調で、三井が切り出す。
「なんでココが分かったんだよ。」
竜はニヤリと笑って、近くにあった階段に寄り掛かるように手を掛けた。
「おめぇの考えてることなんか、お見通しだっつの。
どーせタケシがウザくて独りになりたいとでも思ったんだろ。」
コンクリートにタバコを捻りつけながら、竜は三井のいるであろう方向に顔を向ける。
タバコの微かな火も消えて、周囲は真っ暗になった。
「声でけぇよ。
察しろ、バカ。」
三井はそう言って、砂まみれになるのを恐れぬようにゴロリと仰向けに寝転んだ。
空を見上げても、海と同じように真っ暗だった。
「おめぇはほんと、タケシとは別の意味でウゼェ野郎だな。」
しかもタケシよりタチ悪ぃしな。そう胸の中で付け加えながら、微かにわかる三井の気配を頼りに、波打ち際の方に歩み寄る。
「何こんなとこで寝転んでんだよ。
思春期か?」
そう言いながら、足元の砂を三井の寝ているであろう方向に蹴り掛ける。それはどうやら竜の思惑通り、三井の顔に掛かったらしかった。
三井は何も言わず、暗闇の中、適当に手で振り払おうとする。と、互いに思ったより近くにいたらしい。
三井の腕が竜の脛の辺りに思いきり当たり、バランスを崩した竜が波打ち際に派手に尻餅をついた。
ばしゃんと水音が暗闇に響く。
「バッカ。
おめぇ、パンツまでびしょ濡れになっちまったじゃねぇか。」
そう大して恨めしそうでもなく、竜はそう言って波打ち際に座り込んだまま頭を振る。
「知るかよ。
お前が悪い」
むくりと起き上がった三井がそう言い終わるか終わらないかの内に、竜は三井に向かって手を下から振り上げた。
「てめぇっ、ざげんじゃねーぞ。」
見事に頭から海水を被った三井は、暗闇の中、竜を睨み付ける。竜は自分の試みがうまくいき、上機嫌に腹を抱えてゲラゲラと笑っていた。
「おめぇは、ほんっとにウゼェ奴だな。
こんなとこで何、感傷的な気分に浸ってんだよ。」
「てめぇに言われたくねーよ。
オレのことなんかほっとけ、バカ。」
三井は立ち上がり竜の元へ近付くと、その胸元を掴んで無理やり立ち上がらせる。
「んだよ。」
そう笑う口元に反して、その声音は冷たい。
目が合ったその瞬間、竜のその眼が爛々としているのが暗闇の中でも分かった。
しばらくの間、目を合わせたまま沈黙が続いて、先に口を開いたのは三井だった。
「もしかしてお前、オレのこと好き?」
「おめぇなんか大嫌いだよ。バーカ。」
2人ずぶ濡れのまま、噛み付くようにキスをした。