人工の星が頭上で瞬く。
隣のイルーゾォは黙ったまま、じぃっと天井を見上げていた。
薄暗いせいでその表情はよく見えないが、飽きたとしても無理はない。どんな技術で星の光を模造したところで、所詮は人工の光に過ぎないのだ。
身体を起こし、ライトを消そうと伸ばしたフーゴの手に、イルーゾォの白い手が添えられた。
その赤い瞳は贋物の光を見上げたまま。
フーゴはその手を緩く握りながら、再びソファに寄り掛かり直した。
人工の星が頭上で瞬いている。
それを見上げるフーゴの隣で、specchioも大人しく作り物の星空を眺めていた。
大人しく空を見上げている様子を見る限り、それなりに興味はあるのかもしれない。今年の夏の休暇は星空を見に行くのも良いかもしれないな、と思いつつ、フーゴは空になっていたグラスにワインを注ぐ。
晴れた星空の下で飲むワインは格別だろう。specchioだって夏の夜風を感じながら眺める夜空の方が楽しめるに違いない……
フワフワしている頭でそんなことをつらつらと考えているフーゴの隣では、specchioがグラスを満たしていく赤い液体に呆れたように溜め息を吐くのだが、既に酔っ払っているフーゴの頭にはspecchioの『小言』は届かなかったようだ。
フーゴはソファに寄り掛かり直して、再び頭上の夜空を見上げる。
ワイングラスを傾けながら、指先に当たるspecchioの感触を楽しんでいると、specchioは悪戯するようにフーゴの指先をペロリと一舐めした。
フーゴは柔らかな毛並みとは異なるその感触にクスクスと笑いながら、specchioの顔を擽るようにその首もとをゆるゆると撫でる。
フーゴが何度目かのワインを注ぐその頭上では、相変わらず、代わり映えのしない星空が映し出されている。
ちょうど一年程前、部屋の大掃除をしていたら出てきた、とミスタに無理矢理渡されたプラネタリウム。
フーゴも別に欲しいものではなかったし、特にそれに興味がある訳でも無かったので、ミスタと同じようにクローゼットの奥深くに仕舞い込んですっかり忘れていたのだが、久しぶりのまとまった休暇ついでにクローゼットの中を整理していたら、ミスタに渡されたそのままの姿で出てきた。
使えそうならパッショーネが支援している施設の子ども達に贈っても良いかもしれない、と、specchioといつもの晩餐を済ませた後にワインを飲みながら電源を入れて、もう30分以上が経っただろうか。
頭とセンスの良い猫とはいえ、さすがにもう飽きているかな、とフーゴが再び隣のspecchioに視線を投げれば、specchioはフーゴの方へ振り向いて、フーゴの瞳をじぃっと見つめながら小さく「Miao.」と鳴いた。
心底飽きている、という訳では無さそうだ。
だけど、その瞳は確実に退屈そうに鈍く光っている。
いくら星の光を模しているとはいっても、所詮は人工の光。狭い室内の空調の中では単調で味気のない光の集まりでしかないのだ。
やっぱり本物の夜空を見せてやりたい。
そう決意しながらspecchioのまぁるく光る瞳に小さく笑みを溢して、今度は時計の方へ視線を移す。そろそろタイマーも切れる頃だろう、と確認した時計の針は、フーゴの予想に反して15分も動いていなかった。
実は飽きて退屈しているのはフーゴも同じ。
贋物の星空観賞会などもう打ち止めにして、さっさとベッドに移動すべきなのだろうが、単調な星空のせいか満腹でほろ酔い気分のせいか、少し億劫になってきてしまった。
いつの間にか空になっていたグラスをローテーブルの上に戻しながら、今日はこのままここで寝てしまおうか、となどと横になって考えていると、specchioもそんな怠惰なフーゴに同意するように、首輪に付いた鈴を小さく鳴らしながら緩く伸びをして、そのままフーゴに寄り添うように小さく丸くなる。
このままフーゴと運命を共にするつもりらしい。
その黒く柔らかな身体を撫でていると、贋物の星空を呑み込んでしまいそうな程に大きなアクビが一つ出て、そのままフーゴも目を閉じる。
近くの壁に掛けられた鏡の中では、装置のタイマーが切れた後もしばらくの間、星が静かに瞬いていた。