02.沈黙と人間の夜で成っている

蝉時雨が止んだのに気が付いて、山崎は目を開けた。
ひっそりとした薄暗闇の中で、隣で寝ている男の白い腕が目に入る。
珍しい、まだ寝てるなんて。
そう思いながら、男の寝顔を覗くように寝返りを打つ。
その微かな気配にも、男は目を覚まさなかった。
穏やかで規則正しい寝息を聞きながら、山崎は思案するように目を細める。
今なら彼を殺せるし、真撰組に属する自身の信条を第一に考えれば、それが一番正しい道なのだろう。
実際、手の届く範囲に匕首もある。
でも。
頭では分かっているつもりでも、身体は意にその反して動こうとしなかった。
鉛のように重い腕を少し動かして、その手のひらを見つめる。
副長が知ったら、冗談抜きで切腹だろうか。
自嘲気味に笑って、隣で呑気に眠る男の首をするりと撫でる。
どうせ地獄に落ちるのなら、最後の最後まで足掻いて、縺れて、転がり落ちようか。
いとおしい男の腕に自身の腕を絡めるようにして、山崎はまた目を閉じた。
次に目を覚ました時には、彼はもういないだろう。
静寂はゆっくりと迫り来る宵闇に呑み込まれていった。