目が合った瞬間に分かった。
あぁ、先生も俺と同じ人種なんだと。
先生が無表情を装いながらも、此方を注意深く窺っているのがその瞳で分かったから、自分から眼を逸らした。
今なら桜吹雪のせいに出来ると思ったのに。
いつものように国語準備室でキスをする。
触れるだけのキスと優しい抱擁。
たしか、6人目のクズ男について愚痴ってた時。先生に抱き締められた。
それから今日に到るまで、先生と此処でキスをするようになった。でもそれも今日で最後、卒業式も終わったから、後は先生とサヨナラするだけ。
先生のお陰で、あの日以降クズ男に引っ掛かることもなく、無事に国立大学にも受かった。
やり方はともあれ、立派な教師だと思う。
俺を転落させなかったのだから。
先生が居なかったら、今頃、数十人目のクズ男に引っ掛かって、どうしようもない大人の入り口に立っていたかもしれない。
この部屋での1年間が走馬灯のようにまぶたの裏に浮かぶ。
あの日、俺を抱き締める直前、先生の瞳に一瞬躊躇の色が浮かんだのを見逃さなかったから。
先生への感謝を込めて、俺からサヨナラを伝えることに決めていた。
何度目かのキスを、ちゅ、と音を立てながら離して、先生の腕を逃れるように、一歩後ろに後退る。
「先生、1年間ありがとうございました。」
その腕に捕らわれてしまわないように、少し距離を取って頭を下げた。
先生が黙ったまま、此方を見ているのが分かる。先生との沈黙の時間は嫌いじゃなかったが、今は何だか緊張する。
クズ男相手とはいえ、別れ話なんて何度も切り出してきたのに。
深呼吸をして顔を上げると、先生は怒ったような、泣き出しそうな、今まで見たことがない程、真面目な顔をしていた。
「今日でサヨナラ?」
その顔に似合わない口調で言う。
だから此方も、精一杯ふざけた口調で返す。
「俺、イケメンが好きなんだ。」
少しだけ震えた声でそう言うと、先生は一歩近づいて、不敵に笑いながら俺の首に自身の赤いマフラーを巻き付ける。
「オレが卒業くらいで簡単に手放すと思った?
これから、だぜ。土方くん。」
それから喰らい付くようなキスをされた。