愛されている自信がないとか、情けない悩みを自分が抱くとは思わなかった。
生まれ落ちた環境に色々と問題のあった前世ではともかく、少なくとも、今世では家族や周囲に愛されて育った自覚はある。
今現在、自分の隣で寝ている男の白い寝顔を見つめて、フーゴは溜め息を吐いた。
フーゴの悩みの元凶は、この隣で眠る恋人イルーゾォである。
壁に設置した常夜灯の明かりだけの薄暗い部屋の中、何となく眠れなくて、寝返りを打ち、イルーゾォの横顔を見つめる。
ここ一ヶ月程フーゴは忙しくしていて帰りは深夜、という状況が続いていたのだが、今日は久しぶりに早い時間に帰ってくることが出来た。
2人で夕飯を食べて、食後のデザートと称して買って帰ってきたケーキも一緒に食べて、2人でゆっくりと眠りに就く、そんな日だ。
実は、生き生きと動くイルーゾォの姿を久しぶりに見て、なんとなくセックスの方も期待をしたフーゴだったのだが、イルーゾォにその気はなかったようで、思い詰めたような視線を向けられる事なく眠ることになってしまった事は、少しだけフーゴの想定外だった。
フーゴには自分から誘う勇気はなかった。
理由は単純で、彼から愛されている自信が無い故に、断わられる事が怖いのだ。
一回断わられたくらいで、それが『イルーゾォが自分を愛していない』という理由にならないことは頭では分かっているつもりである。
それでも、それが自分の中で確信に繋がってしまいそうで怖かった。
その一方で、自分がイルーゾォをきちんと愛せているのかどうか、という事については、自信を持って答えられないのである。
もし――というよりもフーゴはそう確信しているのだが――、その事についてイルーゾォが不安に思っていたとしても、自分にはイルーゾォに安心を与えられるだけの答えを持っていない、とフーゴは思っていた。
最低な人間である。
そんな自身の身勝手さにも嫌気が差しつつ、かといって、胸の内のモヤモヤを晴らす手段さえも思い付かないまま、フーゴは長い長い溜め息を吐く。
そんなフーゴの心情的にあまり好ましくないタイミングで、フーゴのモヤモヤがイルーゾォにまで伝染してしまったのか、穏やかに眠っていたはずのイルーゾォの寝顔に小さな変化が現れた。
いつもの『発作』が始まりそうな気配に、フーゴも同じように眉をひそめて、半ば祈るような気持ちでその様子を見守りながら、苦しそうに眉をひそめ、魘され始めたイルーゾォの胸元に手を置き、彼を起こさないよう優しい力で、とんとんとん、と叩く。
すると、イルーゾォは直ぐに穏やかな顔つきと寝息に戻り、いつものように泣きながら起き上がることなく眠ってしまった。
少しだけ呆気なく思いながらも、フーゴが『重いだろう』とその腕を退かそうすると、再びイルーゾォの眉根が寄っていく。
その表情にドキリとして、また腕を元の場所――イルーゾォの胸の辺りに戻せば、再び穏やかな寝顔に戻る。
もしかして、いつもこうして寝てれば良かったのか、と思いつつ、イルーゾォを撫でるように、その胸に置いた手を動かす。
もしかしたら自分はちゃんと愛されているのかもしれないし、自分もちゃんと彼を愛せているのかもしれない。
我ながら単純だとは思うものの、イルーゾォの穏やかな寝顔にさっきまでのモヤモヤが晴れていく感覚を否定は出来なかった。
寝具の向こうに彼の穏やかな心音を感じて、フーゴはゆっくりと瞼を閉じる。
明日も帰りは早く出来るけど、イルーゾォは休みのはずだったから、せっかくだし自分ももう休みにしてしまって、2人でデートをしよう、そして夜も自分から誘ってみようかな、などと思って、薄暗がりの中、ひとり静かに微笑んだ。