01
『チーム解散』
その連絡が来た時、イルーゾォは誰にも教えていない隠れ家で踞っていた。
灯りも点けず、春だというのに薄ら寒い部屋で一人踞っていた。
失った左腕の傷口は真新しい火傷痕によって、その血は疾うに止まっている。左腕を失ったことも、乱暴な応急処置による火傷も、覚悟の上だったから、イルーゾォにとっては痛くも痒くもなかった。
ただ、チームの仲間から連絡のないことがイルーゾォを憂鬱で孤独な気分にさせた。
しばらくして、携帯電話のメール着信に気が付いたイルーゾォはのっそりと顔を上げ、その文面を確認する。
たった一言そう写し出された画面を見て、イルーゾォは持っていた携帯電話を乱暴に閉じると、そのまま部屋の隅に投げ捨てた。
携帯電話は乾いた音を立てて暗がりにある扉付の鏡台の足下へ転がっていく。
ホルマジオはともかく、自分の後に続いて出てきた仲間たちも皆失敗したらしい。
オレたちは皆強かったはずだ。
それなのにリゾットですら負けるなんて、と頭の何処かでそう思ったが、こんなメールが届いた以上、それは紛れもなく事実なのだ。
まさか最後になるはずの『任務』で全員揃って失敗するなんて、笑い話にもならない。
イルーゾォは吹っ切れたように、へらり、と乾いた笑いを溢して、ゆらりと立ち上がった。
他のメンバーの安否が気になったが、きっとどんな形でも生きてはいるに違いない。
リゾットは情に厚く優しい男ではあるが、死んだメンバーにまで律儀に連絡を取るようなことはしない。
メール送信の宛先がソルベとジェラートを除く全員になっているのだから、つまり、現時点で死んでいることが確定しているのはソルベとジェラートだけなのだ。
それを伝えるために、敢えて皆にメールの宛先を見えるようにしているのだろう。
――絶対に生き延びて、地獄であの二人を笑ってやる。
イルーゾォは頭を切り替えるように何度か左右に振って、これからのことを考える。
他のメンバーがどこで戦ったのか、ある程度のことは事前に知らされていたが、詳細な場所や時刻までは知らない。イルーゾォが唯一ある程度の状況を把握しているホルマジオだって、用心深い彼のことだから自分が知っている隠れ家にはいないだろう。
大体イルーゾォ自身、今現在隠れているのはホルマジオにも誰にも教えていない場所だ。
それに、逃げるなら一人の方が何かと都合が良い。
皆そう考えているはずだ。
自分一人なら、計画的にスタンドを使えば、楽にこの国を抜け出せるだろう。この国に入ってきた時と逆のことをすれば良いだけだ。
そして、誰にも知られず逃げるのなら彼処しかない。
当てはあった。
その『当て』とは十年以上前に別れたきりだったが、まだ彼処にいるはずだ。イルーゾォの勘がそれを告げている。
決して頼りたくはなかったし、少なくともイルーゾォはもう一生会うこともないと思っていた。
とはいえ、背に腹は代えられない。
イルーゾォは急いで失った左腕の火傷の処置を行うと、土埃と血まみれの身体をシャワーで洗い流し、簡単な身支度を行う。
どうせロクなものは持っていないし、鏡を移動すれば良いのだから持ち物はいらない。いまさら鞄に詰めて持って行きたいものもない。
全て邪魔になるだけだ。
マン・イン・ザ・ミラーがいればそれで良い。
相棒さえいれば、この身一つで構わない。
あの街を出た時だって、今までだって、ずっとそう生きてきたはずだ。
イルーゾォは自身にそう言い聞かせるように考えながら、買ったきり袖を通すことの無かった服に着替え、部屋の隅に置いた普段は使わない鏡台の扉を開く。
埃を被った鏡の向こうで、イルーゾォの影が揺れる。
イルーゾォが鏡の向こうへ消えたと同時に部屋の隅でカチ、と音がして、鏡台が勢いよく燃え始めた。