Hello! New world.

「てめぇの泡銭で食わせてもらうほど落ちぶれてねぇよ。」
土方はそう言って、笑いながら振り返った。
「でもまぁ、次の非番にてめぇと飲みにでも行くのは考えてやってもいいぜ。」
「上から目線ですか。
 つか、次の非番ていつだ、コノヤロー。」
「何事も無けりゃあ、来週だな。
 それまでにちゃあんとお天道様の下で汗水流して働いて、飲み代稼いどけよ。」
「うっせぇよ。
 ・・・じゃあ一週間後、此処でな。」

目が覚めると白い部屋に居た。
3日前の要人警護で下手を打ったのだ。正確に言えば、それは若い隊士のミスであったが、厳格な土方にとって部下のミスは己のミスで、つまりは若い隊士をそこに配置した自分の判断ミスが招いた事態なのだった。
自分の記憶が確かならば、そのミスをした隊士も要人も無事に怪我一つないはずで、被害は最小限に食い止められた。
先ほど様子を見に来た近藤と沖田の後ろにその隊士が所在なく立っているのが見えたし、要人のその後についても特に報告がなかったので、土方は『そうなのだろう』と楽観的に考えることにした。
近藤曰く、命には別状はないが、しばらくは安静と休息が必要らしい。何を大げさな。と思わなくもないが、付いてきた沖田が悪ふざけする事なく大人しく帰ったあたり、本当に生死の境を彷徨うほどの大ケガだったのかもしれない。
土方は溜め息を吐くと、サイドボードに置かれたカレンダーを見つめた。
心残りがあるとすれば、あの男と交わした一週間前の他愛のない約束だった。
約束を交わしたのが一週間前。
要人警護に付き、怪我をしたのが二日前。
それから丸三日間寝ていたらしいから、今日は・・・
と土方が、まだぼんやりとした頭で考えていたところだった。
「多串君っ!」
大声とともに、土方が今し方考えていた男が勢いよくドアを開けて入ってきた。
「お、万事屋。」
「お、じゃねぇよ!
 銀さん、ちゃあんと汗水流して仕事して多串君との飲み代一生懸命稼いだってのに・・・、何大ケガして入院してんだ、コノヤロー。」
銀時がそうガナリながら勢いで床に放り投げた財布は、普段の様子より確かに厚みがあった。
「悪ぃな。」
「はぁ?何のんびり構えちゃってんの。ホントに悪ぃと思ってんのかよ。死にかけたって聞いたんだからな、心配するこっちの身になれ。つか、約束も守らず勝手にくたばりやがったら、許さねーんだからな。武士道だかなんだかしんねぇけど、そんなんカッコよくなんかないんだからな、こんチクショー。」
そう一息で言い切る銀時の勢いに気圧されて、土方は思わず姿勢を正した。
「・・・いや、マジで悪いと思ってるよ。
 別にあんな状況で死んでカッコいいとも思ってねぇし。
 つか万事屋、お前なんで此処知ってんの?」
極秘事項だと近藤からは聞いている。
要人警護での事故の件も、土方自身が大ケガをしてここに入院していることも、当然のように極秘裏に進められたことだった。テレビでも新聞でも、今回の件は表に出ていないはずだ。
「おたくの山下くんに聞いた。」
「・・・山崎か。」
「そうそう、ジミーくん。」
『山崎のヤツ、退院したら・・・』
軽くはない知り合いとはいえ部外者に簡単に機密事項を洩らした部下への制裁を考えていた土方の事を見透かすように、銀時は見舞いの品であろうりんごに手を伸ばしながら口を開く。
「あ、ジミーくんは多串君に約束反故にされたと思ってイジケてたオレを可哀想に思って教えてくれただけだから、変な八つ当たりしないであげてね。
 ・・・とりあえずさ。」
そこまで言って、銀時はりんごを手に取り、深呼吸をするように、ゆっくり呼吸をする。
ふと空いた間に、土方は後に続くはずの言葉を待ちながら、静かに銀時の様子を見つめた。
「生きてて良かったわ。
 とりあえず生きてりゃあ、どーにかなるもんな。
 つーか、死んじまったら意味ねぇし。
 それに・・・」
何か言いかけて、銀時が目を細めながら窓の外を眩しそうに見やる。
土方もつられるように窓の外に視線を移した。
とても長閑な風景だった。
「・・・退院したら飲み行くか。
 万事屋の奢りで。」
土方の一言に、銀時は穏やかな笑顔を返した。