銀八が土方を好きなだけの話

雨がまた降り始めたようだ。
サアサアサアと窓ガラスが鳴るのを感じて、銀八は何となく顔を上げる。
その視界の隅に、ソファで寛ぐ土方の姿を確認した。
「授業いーの?」
土方は少しだけ顔を上げて、銀八の向こうの雨降りを確認するように目を細める。
「ノートなら山崎が取ってる。」
そう簡単に答えた土方の様子に、銀八は苦笑する。
「・・・ひど。」
「ギブアンドテイクだよ。
 オレは、テスト前にアイツの勉強に付き合ってやってるし。
 それに。」
土方はそこで言葉を切って、また手元の本に視線を落とす。
「桂の授業、余計な話長くてだりぃんだもん。」
「・・・まぁ、それは分かる。」
銀八は桂の授業の様子を想像しながら、さらさらとペンを走らせる。
「でもなぁ。
 ヅラはめんどくせぇから、出席日数のフォローは出来ねぇぜ。」
「どうにかしてくれよ。担任だろ?」
手元の本から顔を上げぬまま、土方は抑揚のない声で返した。
「可愛いげのねぇ奴だな。
 つか、お前何読んでんの?」
銀八も顔を上げぬまま溜め息を吐いて、ふと気になった疑問を口にした。
彼がここで参考書でない本を読む姿を見るのは初めてだった。
国語教師として、気にならないでもない。
「んー、そこの本棚にあったヤツ。」
「オレのかよ。
 廃刊になってて結構高価なヤツとかあっから、大事に読んでくれよ。」
「わかってるよ。小せぇ男だな。」
土方はやはり本から顔を上げぬまま、悪態を吐いた。
理系の土方が興味をそそるような本など持っていただろうか。
銀八は伸びをしながら立ち上がると、土方の横に行き、ソファに腰を掛ける。土方が寝転がっているせいで、狭いが座れないことは無かった。
「・・・仕事終わったのか?」
「終わってねぇけど、だりぃ。」
銀八はそう言って、ポケットから取り出したタバコの箱をトントンと叩く。
「土方くんも吸う?」
土方が起き上がったのを気配で感じてそう問うと、無言で差し出された土方の手のひらに飛び出したタバコをぽとりと落とした。
「ひっでぇ教師。」
持っていた本をテーブルに置いて、笑いながらタバコを咥える土方を軽く睨む。
「慣れた手付きでタバコ咥えるヤツに言われたくねぇな。
 コレは没収な。」
ひょい、と器用な手付きで、銀八は土方の学ランの内ポケットからタバコの箱を抜き取った。
「あっ。ソレ買ったばっか・・・」
「その1本と引き替えな。」
そう言って白衣のポケットにひらりと収める。
「割り合わねぇよ。」
「先生のタバコは高いんだよ。
 テストには出ねぇけど、覚えとけ。」
不貞腐れる土方に、意地悪そうに銀八は笑った。