開け放った窓から、風に乗って祭り囃子が聞こえてきた。
参考書を捲る手を止めて、土方は窓の方に顔を向ける。
銀八も、釣られたように外の方に意識を向けた。
「近くの神社でさ、縁日あんだよ、今日。」
団扇をパタパタと扇ぎながら、銀八は気怠そうに口を開く。
電気代は食う癖に効かないクーラーは疾うに電源を切っていた。せめて風が抜けるようにと、窓とドアを明け放したものの効果は無いようで、部屋の中はうだるような暑さだった。
土方は参考書をローテーブルに無造作に置き、窓の方に移動すると、軽く身を乗り出すような体勢で煙草に火を点けた。
随分とまぁ馴れた手付きだな、と銀八は心の中で呟く。
「ふーん。」
そう言って、微かに吹く風と祭り囃子に耳を澄ませるように、土方は目を細めて、窓の向こうを見つめる。
もう少し日が沈んだら、縁日に出掛けてみるのも良いかもしれないと思ってから、銀八は頭を振った。
いや、もし知り合いがいて、2人でいるのがバレたらメンドクサイ事になるかもしれない。
土方との関係そのものに後悔はしていないが、ややこしい事態になるのだけは嫌だった。
受験生とはいえ、せっかくの夏休みなのに、ろくに思い出も作ってやれないことに不甲斐ない気分にはなるものの、土方も特に望んでいるような素振りは一切見せなかったから、銀八は気楽に構えていた。
まぁでも、地元の祭りを一緒に見て回るくらい、普通にありそうなことだし、それくらいの思い出位は作っても良いかもしれない。
そう思い直して、銀八は土方の方に顔を向ける。
「行ってみる?」
「・・・いや、いい。
先週、近藤さんや総悟と地元の祭り行ってきた。」
想定内と言えば想定内の返事が返ってきて、銀八は心の中で苦笑した。
とは言え、仮にも恋人からの縁日デートのお誘いを幼馴染たちと行ってきたという理由で断るのも如何なものか。
何だか2人の思い出を作りたいと思ったのが自分だけのようで、釈然としない。
「来年、」
咄嗟に自分の口から出た言葉に、銀八は困惑した。
来年、来年自分は土方とどうするつもりなのか。
銀八は軽く動揺している心情を勘付かれないように、何でもない風を装いながら、土方のように窓の外に視線を向ける。
横目で土方の様子を窺うが、土方は聞こえなかったのか、聞こえないふりをしているのか、どちらにせよ、銀八の言葉に興味の無い様子で、祭り囃子に耳をすませるように窓の外を眺めていた。