「ここ、空いてる?」
その声に、土方は訝しげに顔を上げた。
昼過ぎの学食はピークを過ぎたせいか、人も疎らになりつつあり、一人ゆっくりと座れそうな席はいくらでもありそうだったからた。
「・・・空いてますけど。」
土方はぶっきらぼうにそう言うと、俯いて食事を再開した。
話し掛けてきた銀髪の男は、気の抜けた声で「どうもー」と言いながら、土方の目の前の席に腰を掛けた。
銀髪の彼の姿なら見たことがあった。
何よりその銀髪は目立つし、いつも多くの人と賑やかにしていた気がする。
一人でいるなんて珍しいなぁ、と思いながら、黙々と箸を動かす土方に、目の前の男は話し掛けた。
「お前っていつも一人でメシ食ってんの?」
土方は顔を上げず、目線だけを前の男に向ける。
近藤さんや総悟は学部も校舎も異なり、構内で一緒になることはほとんど無かった。唯一同じ学部の山崎も、学科が違うせいか、同じ時間に昼御飯を取れないことはよくあったし、そもそも一緒にメシを食おうと約束してる訳でも無かった。
そういう訳で今日は一人メシだった訳だが、いつも一人な訳ではない。
「悪ぃかよ。」
言外に「お前には関係ねぇだろ」と滲ませる。
目付きの悪さと口の汚さだけは自信があった。
「いや、別にそーゆー訳じゃねぇよ。
ただちょっとかっこいーなぁ、と思っただけ。」
そう笑いながら、目の前の男はラーメンを啜った。
土方は『馬鹿にされてんのか』と思い、その様子を窺うが、特にそうでは無いらしかった。
「・・・お前が一人って珍しいな。」
土方がポツリとそう言うと、銀時は驚いたように動きを止めた。
「なんでそう思うの?
つか、なんでオレの事知ってんの?」
「あぁ、いや・・・
お前目立つじゃん、その頭。
それに、声も背もデカイヤツが、いつもいなかったっけ。」
「・・・あぁ、コレとバカ本ね。」
明らかにガッカリしたように、彼はため息を吐いた。
「あ。オレ、物理システム工学科の坂田銀時っての。
覚えといてね。」
そう言い、笑う銀時に釣られて、土方も少し笑いながら返事をした。
「あ、あぁ。」
「で、お前は?」
「俺?」
「そりゃそうでしょ。
人の名前聞いといて、自分は名乗らねぇの?」
勝手に名乗ったのはそっちじゃないか、と思いつつ、土方も名乗る。
「数学科の土方十四郎だ。」
最後の一口になっていた味噌汁を飲み干し、土方は立ち上がる。
「あ、もう行っちゃうの?」
「あ?」
元々親しくないのだから、待つ義理もないだろう。
大体、自分が居なければ居ないで、知り合いがすぐに話し掛けてきたりするんじゃないのか。
実際、さっきから銀時に話し掛けたそうにしている女子や男子が何人か居たような気がした。
「別に俺が待ってなくても、お前ならメシに付き合ってくれる知り合いがいっぱい居るだろ?」
そう言う土方に、銀時は拗ねたように唇を尖らせた。
「オレは土方くんとメシ食おうと思ってたんだよ。」
「何、調子の良いこと言ってんだよ。
俺はこれから授業だから。」
「えー。
じゃあさ、明日は一緒にメシ食おうぜ!」
「・・・あぁ、時間が合えばな。」
「合えば、 じゃなくて、合わせんだよ!
13時に此処な。」
どうせ明日も山崎とはお昼時間が合わない。13時からなら授業も無かった。
土方は溜め息を吐きながら頷く。
「分かったよ。」
人見知りがちな自分が初めて話す人物とこんな風に軽口を叩いたり、約束を交わすことがあるなんて、我ながら珍しいことがあるんだな、と思う。
彼に友人が多いのは、この人懐こい雰囲気による所も大きいのだろう。
自分とは正反対だなと思いながら、土方は教室に向かった。