手のひらの一粒のキャラメルを持て余して、土方は溜め息を吐いた。
出掛けに近藤さんからキャラメルを押し付けられた。
『一体何なのだ。』と訝しむ土方を見透かすように、彼の横にいたその忠実な部下から「今そのメーカーのキャラメル買うと、お通ちゃんの限定ライブが当たるんですよ。」と教えられたのだった。
大方、想い人の気を引くために、その弟を味方に付けようとしているのだろう。
その企みが上手くいくとは到底思えなかったが、気は優しいが少々間抜けな上司のために協力してやっても良いだろうと、土方は5~6箱を受け取り、見廻りに出た。
とは言え、土方に甘味を嗜む趣味はない。
屯所の連中も上司が相手では断り切れず、その大量のキャラメルを前に途方に暮れているだろう。
どうしたものかと、土方が思案に暮れていると、公園で遊ぶ子供たちの姿が目に入った。
これ幸いと、その子供たちに持っていたキャラメルを全て配り、やれやれと缶コーヒーを開けつつ、タバコを取り出そうとしたところで、尻ポケットのキャラメルに気が付いた。
子供たちのうちの誰かが、イタズラ心か親切心か、貰ったうちの一粒をこっそりと忍ばせたのだろう。
捨てるのも忍びない。
それを手のひらに取り、途方に暮れていたところで、今度はふと白い頭の男が目に入った。
このキャラメルの処分に相応しい男だ。
「おい、万事屋。」
「んだよ。」
土方が声を掛けると、男は面倒臭そうな割には律儀に振り返った。
「もしかしてアレだろ。キャラメルだろ。」
この男は死んだ魚のような目をしている癖して、妙に鋭く、勘が良い。
土方が「その通りだ」と簡単に答えると、銀時は少しだけ相貌を緩ませながら、土方のもとに近付いてきた。
「アレだろ。
お宅んとこのゴリラがメスゴリラの気を引くために、キャラメル大量に買っちまって困ってんだろ?」
「ゴリラじゃなくて近藤さんな。
・・・まぁそんなとこだ。」
「銀さん、万事屋ですから。
お困り事なら、何でもやってやるぜ。
多少面倒事でも、報酬次第。地獄の沙汰も金次第ってね。」
土方が何を頼もうとしているか、まるでわかっているかのように銀時は饒舌に口を動かす。
だが実際、土方が頼みたいことは銀時の予想通りなので、土方は何も言わず、銀時の喋りたいように喋らせた。
「そんな面倒事じゃねぇよ。」
屯所に一般人を入れる事に若干のためらいはあったが、背に腹は変えられない。土方はそのまま話を続けた。
「今日でも明日でも、暇な時に子供たち連れて屯所来い。
報酬はまぁ、出来高払いってところだな。」
近藤さんがどれだけの量のキャラメルを買ったのかは知らないが、この甘味馬鹿とあの底無し胃袋娘が来れば、キャラメルなどすぐに片付くだろうと呑気に考えた。
「おっけー。
じゃ明日の15時位に。
これから大工仕事の手伝いあっから、そろそろ行くわ。」
この依頼内容にちょうど良いであろう約束の時間を一方的に取り付け、銀時は立ち去った。
土方はその後姿を見送りながら、ふと今持っている一粒のキャラメルを渡すことを忘れたことに気が付いた。
(ま、いっか。)
ポケットの中の溶けかけたキャラメルを握り締めて、土方も歩き出した。