気配に気が付いて、山崎は振り返る。
夜の闇に紛れるように、高杉はそこに立っていた。
山崎はほんの少しだけ警戒を解いて、その男に話し掛ける。
「・・・珍しいですね。
僕の仕事中に顔出すなんて。」
「退屈でナァ。」
高杉は本当に退屈そうな声でそう答えた。
山崎はため息を吐いて、一歩近付いてきた高杉と距離を取るように一歩後退る。
「今回のターゲットは貴方なんですよ。」
山崎は静かな、でもよくはっきりとした声でそう言いながら、高杉に微笑みかける。
「そうか。」
高杉は怯まぬ様子で、更に一歩、山崎に近付く。
「・・・わかってて此処に来るなんて。
大した自信ですね。」
「言っただろう。
退屈だって。」
山崎は鋭い眼をしたまま、高杉の様子を窺う。
その眼が良い、と高杉は頭の片隅で思った。
「この場で殺るか?」
高杉がにやりと口角を上げたその瞬間に、山崎は音も無く、高杉に飛び掛かった。
銀色の線が、綺麗な弧を描く。
高杉はそれをひらりと躱すと、山崎の腕を取り、その手にある小刀を手に取った。
「手ェ抜くたァ、良い度胸じゃねェか。」
山崎は答えず、静かに微笑む。
その眼は鋭いままだった。
心なしか瞳孔が開いているように見える。
「上司に顔向け出来ねェナ。
どう報告するつもりだ。」
しばらく小刀を弄んで、その場に放り投げた。
「大人しく殺られる気も無いくせに、簡単に言わないでください。」
鋭い目付きのまま、そうニッコリと笑う山崎の体を抱き寄せ、高杉は口付ける。
「地獄まで、付き合ってくださいね。」
口付けの合間にそう囁きながら微笑んで、山崎は高杉の首に腕を回した。
溺れているのはどちらの方か。
高杉は自嘲気味に嗤った。