22.ワインレッドに溺れた魔女

気配に気が付いて、山崎は振り返る。
夜の闇に紛れるように、高杉はそこに立っていた。
山崎はほんの少しだけ警戒を解いて、その男に話し掛ける。
「・・・珍しいですね。
 僕の仕事中に顔出すなんて。」
「退屈でナァ。」
高杉は本当に退屈そうな声でそう答えた。
山崎はため息を吐いて、一歩近付いてきた高杉と距離を取るように一歩後退る。
「今回のターゲットは貴方なんですよ。」
山崎は静かな、でもよくはっきりとした声でそう言いながら、高杉に微笑みかける。
「そうか。」
高杉は怯まぬ様子で、更に一歩、山崎に近付く。
「・・・わかってて此処に来るなんて。
 大した自信ですね。」
「言っただろう。
 退屈だって。」
山崎は鋭い眼をしたまま、高杉の様子を窺う。
その眼が良い、と高杉は頭の片隅で思った。
「この場で殺るか?」
高杉がにやりと口角を上げたその瞬間に、山崎は音も無く、高杉に飛び掛かった。
銀色の線が、綺麗な弧を描く。
高杉はそれをひらりと躱すと、山崎の腕を取り、その手にある小刀を手に取った。
「手ェ抜くたァ、良い度胸じゃねェか。」
山崎は答えず、静かに微笑む。
その眼は鋭いままだった。
心なしか瞳孔が開いているように見える。
「上司に顔向け出来ねェナ。
 どう報告するつもりだ。」
しばらく小刀を弄んで、その場に放り投げた。
「大人しく殺られる気も無いくせに、簡単に言わないでください。」
鋭い目付きのまま、そうニッコリと笑う山崎の体を抱き寄せ、高杉は口付ける。
「地獄まで、付き合ってくださいね。」
口付けの合間にそう囁きながら微笑んで、山崎は高杉の首に腕を回した。

溺れているのはどちらの方か。
高杉は自嘲気味に嗤った。