SD:土屋と三井

「実は僕、冥王星の王子様やねん。」
その発言の微妙さに、三井は一瞬眉をしかめた。
発言の主はそんな三井の様子に怯むことなく、ぼけーっと夜空を見上げている。
少し肌寒いが、少しだけ星が瞬いているのが見えた。
「・・・冥王星ってビミョーじゃね。
 なんかもっとあんじゃん。
 シリウスとかデネブとかさ、カッコいい星にしとけば?」
果たしてシリウスとかデネブとかがカッコいい星なのかどうか、三井には分からなかったが、少なくとも冥王星よりはサマになる気がした。
三井がそう言うと、土屋は呆れたような、人を小馬鹿にしたような表情をする。
4月のまだ出会いたての頃こそ、その表情に苛立った三井だったが、土屋の人となりを理解してからは気にならなくなった。
むしろ、その表情がとても彼らしく思えて、愛着を感じている。
「しとけば、ゆうたって、冥王星生まれなんやからどーしよーもあらへん。
 それに冥王星かて悪いとこやないもん。」
そう言って手に持っている缶ココアを飲む。
「ふーん。」
それにしたって、なんでまた冥王星の王子様なのか。
彼が最近読んでいた本や見たそうにしていた映画のタイトルを思い出してみても、その発言のキッカケになりそうなものは思い浮かばなかった。
三井は頭を振って、缶コーヒーを飲み干す。
多分、何か彼なりの愚痴か何かなのだろう。
聡明でインテリな関西人である彼の表現は、たまにとても歪曲的で分かりづらい時がある。
公園の入り口にゴミ箱が見えたので、三井は空き缶をそれに投げ入れた。
「相変わらずキレイなシュートやな。
 羨ましいわ。」
横目でその様子を見ながら、土屋が賛辞を贈る。
その目付きの鋭さから、今のは本音だろう。
「どーも。
 やっぱさ、冥王星に帰りたいなー、なんて思うの?」
三井は土屋に話を合わせることにした。
こういう土屋の途方もない話に付き合うのもキライではなかった。
「んー、そこまででもあらへんなぁ。
 冥王星には三井くんおらんし。」
言いながら、三井ににっこりと人懐こい笑顔を向ける。
街灯の少ない夜道でもそれははっきり見えた。
「じゃあ、不満なんてねぇだろ。」
「関西弁じゃ、ぜーんぜんモテへんねんもん。」
彼がモテないのは、入学早々三井の事を追いかけ回していたのが原因なのだが、三井は敢えてその事は口にしなかった。
「でもそれより…」
そう言い淀んで、中空に視線を向ける。
「エスカレーターの立ち位置とかタマゴサンドの中身とか食パンの枚数とかお出汁の色とか、18年間積み上げてきた僕のジョーシキぜーんぶひっくり返ってしもた。
 おんなじ銀河の太陽系やから遠いとこやないし、ゆうてもそんなに違わんと思っとったのになぁ。」
あっけらかんとそう言いながら呟く土屋の後ろを、三井ものんびりと付いていく。
彼が『東京』という名の地球に来てから、約半年。
なるほど。
確かに彼は冥王星の王子様なのかもしれなかった。