SD:洋平と三井

「今日は土星の輪っかがおっきく見える日らしいっすよ。」
朝、出掛けになんとなく耳に入った情報を水戸は口にした。
タバコの煙が緩やかに空に昇る。
キレイな秋晴れの青空が広がっていた。
ちょうどよく出来た日溜まりに横になっていた三井は気怠そうに寝返りを打って、水戸の方に顔を向けた。
「それ、オレに言ってる?」
(アンタじゃなかったら、誰に言ってると思うんだよ。)
水戸はそう心の中で独りごちる。
実際、屋上には2人しかいなかった。
水戸はこの先輩が苦手だった。
なんか妙に余裕ぶって、飄々とした風で、何を考えているのか分からない。この先輩がいなければ、インターハイ出場など出来なかったことは理解しているつもりだが、そもそもあんな事件を起こしてバスケ部に復帰出来る神経が信じられない。
幼なじみの親友は、この先輩とずいぶんと仲良くしているが、水戸には正直理解出来なかった。
今だって、水戸は授業をサボって一人屋上に来たことを後悔している。
三井がいることが分かっていれば、絶対に来なかった。
が、こういう状況になってしまえば仕方がない。
水戸は努めて平静を装いながら、タバコに火を点け、三井に世間話を持ちかけた。先輩に対して最大限の敬意を払った結果だったのだが、三井はいとも簡単に、水戸のその思いを打ち砕いた。
この先輩と会話をしようとしたことが間違いだったのだ、互いに関わらないよう、離れたところでタバコに火を点ければ良かったのだと、水戸はそう思った。
押し黙る水戸に対し、三井も何も言わず、仰向けに寝転んだままぼんやりと空を眺めている。
2人しかいない屋上は、まるで時間が止まっているかのように静かだった。
ただタバコの煙だけが、ゆぅるりと揺れる。
タバコの煙の向こうに、三井の姿がおぼろげに見えた。
確かにこの先輩が苦手なはずなのに、水戸は彼の姿から視線を外すことが出来なかった。
いつもそうだ。
苦手だからこそなのか、三井の事が気になって仕方がない。
重苦しい沈黙を撃ち破るように、三井が急にむくりと起きる。
そうして、水戸の方に向き直って、口を開いた。
「お前、オレのことキライだろ。」
あぁ、何考えてるのか分からない。
何でそんなに余裕ぶっていられるんだろう。
水戸の苛立ちを見透かすように、三井は目を細めて、空を仰ぐ。
「オレはお前のこと、キライじゃないけどな。」
そう言いながら立ち上がり、歩き出す。
ドアノブに手を掛けたところで、三井はまた水戸の方に振り向いた。
「お前、ほんとはオレのことスキなんだろ。」
そう言ってニヤリと笑い、三井は扉の向こうに去っていった。
「・・・冗談じゃねぇっつの。」
水戸は頭を振りながら、フェンスに凭れてしゃがみ込む。
見上げた空は、水戸の心の内のもやもやなど嘲笑うがごとく、天高く、どこまでも澄み渡っていた。