今回も仕事はあっさりと片付いた。
そもそもイルーゾォの能力からしたら簡単な内容であり、この分ならホルマジオやソルベ、ジェラートの補助はすぐに不要になるだろう。
むしろもう不要なのかもしれない。
今回の仕事でホルマジオが果たした役割は、車を運転できないイルーゾォに代わってハンドルを握るだけの、運転手としての役割だけだった。
潮の香りと波の音がしなければすぐに海とは気付けない暗闇の中、優秀な新人の後ろでホルマジオは溜め息を吐いた。
暗闇に溶け込んで、そのまま消えてしまいそうなイルーゾォの後ろ姿をゆっくりと追い掛けながら、ホルマジオは感慨に更ける。
ここ半年程の間に、新人が立て続けに2人も来た。
それだけでもなかなかに異常事態と言えるのだが、それ以上に、新人2人はそのスタンド能力込みで大変優秀だった。
2人とも、人を殺す術はともかくとして、何より人を殺める事に躊躇しない性質を持っていたのである。
彼らについては、ソルベ、ジェラートとともに3人交代で面倒を見ているが、生活面において、その手を煩わされることはほとんどなかった。
暗殺業をする上で重要なのは、何よりもまず『人を殺す事に躊躇しないかどうか』と『殺人鬼にならない、つまり一線は越えない事』だとホルマジオは考えている。
特に宗教的な道徳心や信仰心、というのはけっこう厄介な問題で、口ではどんなに悪ぶっていても、いざターゲットを殺す段階になって躊躇する若者を何人か見てきた。
そして躊躇した人間は、大体半年程でダメになる。
殺されるか、耐えられないか、のどちらかだ。
逆に、そのままおかしくなって殺人鬼になるヤツもいる。
今回の新人は、2人揃って『大丈夫』だった。
ただそれが彼らにとって良いことなのかどうか、については、ホルマジオは判断しかねている。
もう一人の新人――スタンド能力上、直接的に自分の手では殺めないメローネは、きっと最後まで人を殺す感覚が分からないまま、それがさも当然の業務として普通に人を殺し続けるだろう。
それはそれでヤバいと思うが、人を殺す肉体的・精神的感覚を認知した上でその仕事を全うすることに躊躇のないイルーゾォも相当ヤバい、というのがホルマジオの偽らざる本音である。
ギャングの暗殺チームとはいえ、ここまでぶっ壊れた上で、それを『ただの仕事』として片付ける事が出来る子どもがほぼ同時に2人も入ってくるなんて、世も末か、と、ホルマジオは実はそう思っていた。
ホルマジオはそれをチームの誰にも言ってはいないが、ソルベは多分そう思っている。言葉少ない奴ではあるが、2人に対する言動や視線からそれは感じ取れた。
ジェラートが2人に対して何か含むことがあるような素振りを見せる事はなかったが、ジェラートはジェラートでぶっ壊れた感覚のヤバさを理解した上でそれをやり切ることが出来るヤツなので、『使える子が入ってきて良かったね』ぐらいの感覚なのかもしれない。
だが、ホルマジオとソルベが2人の『人』としての将来を憂いたところで、所詮はギャングの暗殺チームである。
彼らがそのままの方が、彼らにとっても都合は良いだろう。
どうせ足抜けは許されず、死ぬまで『仕事』を続けるしかないのだから。
今さら下手な道徳心を植え付けたところで、それが彼らの為になることなど到底あり得ないのだから、このままで良いのだ。
ホルマジオとソルベは互いに語り合うことはなかったが、そう結論付けていた。
ぎゅむぎゅむとなる砂浜をのそのそと歩く。
海を見てみたい、と始めに言ったのはイルーゾォだった。
生まれてからこの方、まともに海を見たことがないらしい。
海を見たことのないイタリア人など存在しない、とホルマジオは思ったが、イルーゾォが生粋のイタリア人にも見えなかったので、それもそうかもしれないと思い直して、仕事帰りにイルーゾォを海まで連れてきてやった。
どうせ海なら昼間の方が良かったのかもしれないが、ここで一泊する時間的な余裕も金銭的な余裕もない。
一晩掛けて車を運転し、アジトまでイルーゾォを連れて帰らなければならないのである。
寄り道するのが精一杯だったのだが、いずれにせよ、その行為自体がホルマジオの気まぐれに過ぎないし、それに、イルーゾォには夜の海の方が良い、勝手にそう思った。
立ち止まるイルーゾォに合わせて、ホルマジオもその数メートル後ろで立ち止まる。
ゆっくりと音もなく、イルーゾォがホルマジオの方へ振り向いた。
闇の中、赤い目だけが光って見えて、ホルマジオは思わず目を逸らす。
そんなホルマジオの心の内を見透かすように、イルーゾォは地平線のあるはずの方へと顔を向けた。
「……なぁ、海の向こうって何があんの?
この世の果て?」
まっ暗闇に目を凝らすようにして、イルーゾォがぽつりと呟く。
問い掛けのようにも独り言のようにも聞こえるそれに、ホルマジオはただ「知らねぇよ」と吐き捨てた。