SS:八土

「卒業するまではプラトニックなお付き合いをしよう。」
マイペースでいい加減そうな男が、実は割と真面目な頑固者であることに薄々勘づいていた土方は、その内容に特に異論は唱えなかった。
とはいえ、既に女性との経験は一通り済ませていた土方にとって、その内容は、少々退屈なものでもあった。
男性とのお付き合いは初めてではあったが、晴れて恋人同士になった以上、少しくらいは触れ合ったり、じゃれ合ったりもしたい。
そんな土方と、教師としてせめて最後の一線は守りたいと考えた銀八との駆け引きの末、触れ合う程度のフレンチキスまではOKという関係を、土方が卒業するまでの一年余り、2人は続けたのだった。
卒業したら、キスもセックスも解禁。
それこそ卒業式のその日にすべて経験するのだろう、と想像する土方の期待を裏切るように、卒業しても清い関係が続いた。
今時の中学生だって、もっと進んでいる。
拍子抜けした土方だったが、別れる気は起きなかった。
「もしかして自分に性的魅力がないのではないか」と軽く悩みもしたが、2人並んで食事をしたり、買い物をしたり、映画を観たり、触れるだけのキスをしたり。その合間に銀八の表情を見る度、「愛されてるなぁ」と実感出来たから、決定的に不安にはならなかった。
大学生になって初めての夏休みも、意外と世話焼きな銀八が忙しい事は去年の様子を見て分かっていたから、土方もワガママを言うつもりはなかった。
むしろ、なんて事ない日常を2人で共有出来る事そのものが嬉しかったし、それで納得しているつもりだったのだが。
長かった夏休みも終わり、空に秋の色が見え始めた頃、銀八にドライブデートに誘われて、「海に行きたい」と言ったのは、やっぱり2人で夏らしい思い出を作りたかった、という願望の現れなんだろう、と、土方は助手席で少しだけ居心地の悪い気分になってしまったのだった。

教師の夏休みはなんだかんだ言って忙しい。
特に銀八の場合は落ちこぼれクラスの担当だから、普段の素行と成績の悪さを穴埋めさせるためのボランティア活動の引率だとか、赤点を補う為の特別カリキュラムの準備と補習に次ぐ補習で、むしろ普通に授業がある期間の方が余裕があるくらいである。
だからこの夏も、せっかく土方が大学生になったというのにデートする時間など無く、逢える時間のほとんどを銀八の住む安アパートの一室で、電気代は食うクセにろくに効かないクーラーに文句を言いながら映画を観たり、カレーライスを食べた思い出しか作ってやれなかった。
それでも文句一つ言わない土方に、学校も再開し余裕が出来た銀八は
ドライブデートに連れてってやろう、と、久々に愛用のオンボロ車で出掛けたのだった。
「どこか行きたいとこ、無い?」
「んー。じゃあ、海。」
なんでまたこんな季節に、とは思ったが、そう言って笑う土方の笑顔に絆されて、2人海までやって来た。
昼間はまだ暑いが、日が暮れてくれば少し肌寒くなってくるだろう。
あんなに濡れちゃって大丈夫かね、と、靴のまま波打ち際ではしゃぐ土方の姿を、銀八は少し離れたところで見守る。
プラトニックなお付き合いなんて、自分で言い出したことではあったが、それが今日まで続くなんて思いもしなかった。
土方の卒業で、大人のお付き合いは解禁になったはずだが、甘くてこそばゆい関係を手放すのもなんだか惜しくなってしまい、手を出し難くなって早半年。
土方から仕掛けてくるかな、とも思ったが、土方は土方で満ち足りたような表情をするものだから、銀八も幸せな気分になってしまい、「このままで良いかなぁ」なんて考えたりした。
自分のおっさんっぷりを自覚することも増えた反面、まだまだ青いなぁと思いもするが。
初秋のキラキラと柔らかい日差しの中ではしゃぐその姿に、「もう我慢も限界かな」と心のうちで苦笑する。
逸る心を落ち着けるように、咥えたタバコを離して、ふぅ、とゆっくり一息吐いた。