藤の実と銀杏

ぱちぱち、と栗の実や藤の実、銀杏の実が爆ぜる賑やかな音に、死々若丸はそばの火鉢に視線を落とした。
その賑やかな音に耳を傾けながら、卓袱台に肘を突き、小さく欠伸をする。
食欲を刺激する美味しそうな音と香ばしい香りが周囲に強く漂うが、書斎だか研究室だか知らないが、ガラクタや分厚い本ばかりが積み上がった『物置き』に籠りっきりの鈴木には一切届いていないだろう。
死々若丸はその視線を火鉢から離れの物置きに移した。
鈴木があの物置きに籠ってから、もう二週間が経つ。
死々若丸にはその内容はよく分からないが、研究に興が乗るといつもこうだ。
自身の寝食も周囲も、死々若丸のことさえも忘れて作業に没頭する。
鈴木も死々若丸も、一~二ヶ月くらいなら食事を摂らなくても支障のない種族だから、この状況に心配はしていないし、死々若丸が鈴木に拾われた頃から――きっともっと昔からそうだったのだろうが――、そんなことはしょっちゅうあることだったので、いまさら特に驚きもしないのだが、ここ最近はそういうことも無く、ふたりのんびりと過ごしていたせいか、死々若丸はこの状況に少しばかり退屈し始めていた。
もう二週間もあのバカの顔を見ていない。
改めてそう認識してしまうと、暮れゆく秋の気配も相俟ってか――死々若丸自身は決してそう認めるつもりはないが――、うら寂しい気分になってくる。
それに、食事を摂らなくても大丈夫、鈴木もバカではあるが間抜けではないので自身の体調管理くらいできるはず、と頭では理解していても、少しだけ心配にもなってくる。
そこで、つい先日、陣と凍矢が魔界で入手してきたと言う秋の味覚を山程置いていったことを思い出した死々若丸は、自身のおやつの為、と称して押し入れの奥から火鉢を引っ張り出してきた訳である。
卓袱台に肘を突いたまま、火鉢の上の木の実たちと見合わせるように姿勢を落として、その食べ頃を見定める。
食べ頃まではまだあともう少し。
どうせ出すのなら、完璧なものを出して鈴木を驚かせてやりたい。その一心である。
その為に、幻海のところの物置きから貰ってきてから戸棚の奥に仕舞われたきり使っていない上等な小皿まで取り出した。
漂う甘い香りに、死々若丸は真剣な表情で火鉢の上の様子を観察する。
皆良い色だ。
もう良いだろう。
そう判断した死々若丸は、手慣れた手付きで用意した小皿に木の実を盛り付ける。
秋の風景として提供するには少しばかり寂しい気はするが、これでも十分だろう。
鈴木の分の皿を手に取り立ち上がって、彼が籠る物置きへと向かう。
縁側を歩いていて、ふと庭に目を遣ると、何処から舞い散ってきたのか。
綺麗な黄色の銀杏の葉が数枚落ちているのが見えて、死々若丸はふわりと庭に降り立った。
特に綺麗な葉を二枚ほど見繕って手に取り、持っていた皿に添える。
完璧だ。
死々若丸は満足げに笑うと、物置きに籠りっきりのバカに暮れゆく秋を届けるべく、再び歩き出した。