R.I.P. epilogo

「……これだけ、ですか?」
机の上に放られた薄っぺらいファイルと一枚のポラロイド写真を見て、ジョルノは小さく呟いた。
ちらりと見上げたミスタの表情はいつも通りの飄々とした表情で、隣のフーゴはミスタよりはまだ少し深刻そうな表情をしていたのだが、それもまたフーゴのいつも通りの苛立ちを隠そうとしている表情にも見えた。
2人ともジョルノの呟きを拾う事なく黙ったきり、という事はこの結果に対して言い訳をするつもりもない、という事だろう。
暗殺チームの死体から公的記録の調査をして何も出てこなかったところまではある程度予想していた事ではあったのだが、パッショーネ内部の資料をしらみ潰しに調べても、彼らに関する記録は出てこなかった。
それでも彼らのアジトと思しきアパートを見つけたまでは良かったが、その調査結果が、今3人の目の前にある数枚の紙切れである。
自分らの存在に繋がるものは、全て自分らの手で処分した後だったのだろう。
彼らの『覚悟』にそれなりの敬意は評するものの、彼らの『動機』も、あの戦いの『意味』も、結局分からないままでは正しい評価を下せるはずもない。
彼らは組織の『裏切り者』として扱うしかなかったが、ジョルノの頭の何処かでは、彼らが『こうなった以上はそういう結末を望んでいる』ような気もした。
とはいえ、数少ない手持ちの駒でどんなストーリーを組み立てようが、いずれにせよ、所詮は残った側の想像に過ぎない。
こちらの都合に合わせて利用させてもらうだけ、疾うに結論は出ている話なのだ。
ジョルノはそう考えて、ポラロイド写真を手に取る。
写真の中のチェス盤はまだ勝負はついていないようにも見えるが、そこから『それ』以上の情報を読み取る事は難しい、というよりも、それ自体が意味のない行為のように思えた。
諦めて視線を横に移動させれば、フーゴが纏めた暗殺チームの調査結果のファイルが目に入る。
だがその薄さからして、そこにもまともな結果は無いだろう事は読まずとも予想できた。
1枚のポラロイド写真とA4のレポート用紙数枚分にしかならなかった彼らの人生に少しだけ憐憫の情を抱きつつ、小さく溜め息を吐く。
今さら、そのファイルの中身を改めて確認する気にもなれなかった。
ミスタは相変わらず飄々とした表情でジョルノの手元を見つめている。
フーゴはそんなジョルノの反応など始めから分かっていたかのような表情で、ジョルノの背後の窓から見える青空を見つめていた。
「アパートの処分は?」
「滞りなく。」
フーゴが窓の向こうを見つめたまま、短く答える。
ミスタはそれに同意するように、ジョルノに目配せをした。
実はフーゴはアジトの壁に掛けられていた大きな鏡とアンティークの鏡を幾つか持ち帰っていたのだが、ミスタは本来は報告すべきであろうその事実を、敢えて口にはしなかった。
フーゴもほとんど衝動で取ったその行動を報告するつもりはない。
ジョルノはそれ以上問う事はせず――聞いたところで、フーゴの行為を咎める事はしなかっただろうが――、手に持ったままだった写真に再び視線を落とす。
余白のスペースにミスタの手によって書き込まれたのであろう『R.I.P.』の文字に改めて溜め息を吐くと、ジョルノはファイルからレポート用紙を取り出し、背後の窓を開け放った。
青い空と季節の持つイメージとは裏腹な、冷たい風が3人の頬を掠める。
ミスタとフーゴはジョルノの取った行動に一瞬だけ眉をひそめて、それでも何も言わずにその行為を黙ったまま見守っていると、ジョルノは2人に目配せをしてから、手に持っていたレポート用紙とポラロイド写真を窓から放り投げた。
ジョルノの手からそれらが離れ、ひらりと空に舞い上がろうとしたその瞬間、全てが薄紅色の花びらに姿を変え、冷たい青空に散っていった。