待機中の車内はエンジンを切っているせいで、イルーゾォの身体は芯から冷えきっていた。
プロシュートが出掛けに渡してくれた、無いよりはマシと言えるだけの毛布にくるまり、シートに寄り掛かり直す。そのついでに覗いた携帯電話には、まだまだ連絡が入ってくる様子はなかった。
隣のメローネもまた、イルーゾォと同じように背を丸くして、膝に置いたノートPCを覗き込んでいる。
こんなに暗く静かな夜ならば、この空間もまた静謐に包まれている、と思いきや、今現在、車内にはメローネがノートPCで見ているポルノの音声がやたらと大音響で響いていて、イルーゾォはその女優の下品な喘ぎ声に思わず舌打ちをした。
ちらりと画面を見れば、想像通り、ブスな女があからさまに演技と分かるそれで善がってるが、そんなもので興奮できる奴なんて、よほど程度が低いに違いない。
「相変わらず、趣味悪ぃなお前。」
あのメローネがこんなもので興奮しているわけがない。
イルーゾォは分かってはいたものの、あえてそう言葉にした。
これで興奮しようがしまいが、メローネにデリカシーがないことには変わりがない。この場にそれを諫める人物がいない――だからこそ、メローネは平気でポルノ鑑賞をしているのだが――ということに、イルーゾォは諦めたように前髪をかき上げ、全身を毛布に包むように座席の上で足を抱えた。
この動作を、行儀が悪い、と言って諫める人物もいない。
「PCで暖を取ってるんだよ。」
メローネはそこで言葉を切って顔を上げた。
「……今日は温かい部屋が待ってるんじゃないの?」
小馬鹿にしたように口角を上げながら意地の悪い視線を送るメローネに、イルーゾォは今度はメローネの目を見ながら大きく舌打ちを返した。
出張明けで今日はオフのはずのギアッチョの予定を、イルーゾォは知らない。メローネもギアッチョの予定など知らないし、知るつもりもない。そもそも、自分らがいつこの仕事から解放されるのかも分からない。
その上でからかっているのだ。
つくづく趣味の悪い男――イルーゾォも人のことなど言えないが――である。
「うるせぇ。」
イルーゾォはぶっきらぼうにそう呟いて、車窓の向こうへ顔を逸らした。
辺りはすっかり夜の色に包まれている。
これだけ暗ければ、わざわざスタンドの力を借りずとも闇夜に紛れることは容易いだろうし、実際にイルーゾォもメローネもそれをこなすだけのスキルは持っている。
用心深いに越したことはないだろうが、それにしたって、待機は退屈なのである。
こんなに暗く寒い夜なら尚更だ。
うんざりするほど響き渡る濡れた音を自分の世界からシャットアウトするように、イルーゾォは冷たい窓に額を当て、闇夜の向こうに意識を集中させる。
やたらと静かで誰もいない窓の向こうの世界に、イルーゾォは溜め息を吐いた。
電話はいつ鳴るのか。
路傍の石はクリスマスを知らぬまま、ただ夜だけが更けていく。