04.2020土方誕生日記念

「誕生日おめでと。」
ドアが開く音と声の気配に土方が振り返ると、玄関に坂田が立っていた。
土方はゆっくりとした動作でイヤホンを外す。
ばたん、とドアが閉じる音がやけに大きく響いた。
「誕生日、おめでと。」
少しだけ笑いながら、同じ言葉を繰り返す坂田の姿に、土方はつまらなそうな顔のまま、再びイヤホンを耳に挿して、手元の本に視線を落とす。
「それ、昨日の話だけど。」
小さく呟いた土方の声は届いたのか、届いていないのか。
坂田は土方のつまらなそうな姿を気にする様子もなく、靴を脱ぎ捨てると、ワンルーム特有の小さく、男子学生の一人暮らしの割には小綺麗に整理されたキッチンにまっすぐ向かい、手に持っていたスーパー袋から購入してきたものを取り出す。
イチゴ、バター、生クリーム、小麦粉、卵、バター…
その何だか楽しそうな後ろ姿の様子を少しだけ窺って、土方は小さく溜め息を吐いた。
甘いものに目がないらしいあの男は、これからケーキを作るつもりらしい。
甘いものが苦手で、必要最低限の料理しかしない土方でも、その袋から取り出された材料から何が作られるのか理解出来る。
出来上がったケーキを食べるのは彼一人だけに違いなかった。
土方は完成したケーキに手を付けるつもりはなかった。
それでもきっと、土方はケーキを作った彼に「ありがとう」とお礼を言うし、彼もきっとそれで満足なのだろう。
甘い香りで満たされるだろう、この部屋の少し先の未来を想像するだけだ胸焼けしそうだったが、文句を言う気分にはならなかったし、ましてやケーキ作りを止めるつもりもなかった。
それくらい、今の土方の暮らしは坂田との関係で満たされていた。
夕飯は何にしようか。
ケーキに合わせて洋食の方が良いだろうか。
冷蔵庫の中を思い出しながら献立を考え始めて、すぐに「まぁいいや」と思い直す。
後で、彼と一緒にスーパーに行って考えれば良い。
土方は再び手元の本に思考を戻す。
カーテンがふわりと揺れた。