暖かくなってきたとはいえ、春先の海岸は冷たい潮風のせいで、少し肌寒かった。
「やっぱちょっと寒かったな。」
そう笑う三井の方には振り返らず、竜は咥えたタバコに火を点ける。
冷たい潮風が吹く砂浜にはどこから吹き込んだのか、桜の花びらが疎らに散っていた。
竜は俯いたまま、波打ち際ぎりぎりの所まで近付き、足元で小さく泡を立てる波の様子を見つめる。
ふと顔を上げると、少し離れた場所にいる三井と目が合った。
三井が口を開く。
「 」
竜は黙ったまま、三井から視線を反らし、地平線の方に向ける。
その一言は、波の音に紛れて聞こえなかった事にした。