リーダーの半歩後ろを歩きながら、イルーゾォ――specchioは気付かれないよう大きな欠伸をするついでに、昼間だというのに薄暗い路地の入り口に目を光らせた。
今日は猫として生まれた現在でも変わらずリーダーであるリゾットと共に街の『パトロール』だ。
この時期は街中のそこかしこに、人ではない『何か』が人の振りをして紛れていることが多い。
その『何か』のテンションが最高潮に達するのが月末のハロウィンから死者の日にかけてなのだが、何しろ『何か』の大好物は子どもなので、自他ともに認める『子どもの守護者』であるリゾットはこの時期になるといつも気を張っていて、寝不足ぎみだ。
specchioの視線に気付いて立ち止まったリゾットに小さく首を振って、先を促す。
specchioは路地の入り口にいた『何か』を睨み付けてから、歩き出すリゾットの後に続いた。
スタンド能力の特性なのか、たまたまそういう勘が強かっただけなのか、人間だった時から『何か』を敏感に察知しやすい方ではあったのだが、それが黒猫になってからさらに鋭くなった気がする。
ちなみに、プロシュートやメローネなんかは人だった時でも猫になった今でもそういった類いのものに鈍感なので、スタンド能力者だから、或いは、猫だから察知できる、というものでもないようだ。
イルーゾォ自身も、詳しいことはよく分かっていないので、その『何か』が悪魔の類いなのか、はたまた妖精的な類いのものなのか、は知らない。
『何か』について知っていることと言えば、人間としてこの世に生を受けてからイルーゾォとして生きるよりちょっと前のその間に、『祖母だ』と名乗る婆さんから『何か』への対処法として『鏡の簡単な使い方』を教えてもらったくらいである。
結局、それ以上のことは教えてくれなかったから、あの婆さんもその程度の知識しか持っていなかったのかもしれないが、それでも一応対処することは出来たので、暗殺チームの中で何かがあった際にはそれなりに頼りにはされた。
猫として生を受けた現在でも、仲間内からは『イルーゾォは見えるし、対処もできる』と認識されていているので、リーダーから近所の子どもたちの傍に『何か』がいないか、相談されることも多い。
というわけで、今日はリーダーと街の『パトロール』なのである。
街の至るところに『何か』がいるにはいるが、今日は小物ばかりだ。昨日もパトロールしているし、アイツらの方も本番当日に向けて英気を養っているのだろう。
路地や物陰に隠れる『何か』に睨みを利かせながら街路を闊歩する。
おそらく、もうしばらくの間は『何か』たちも大人しくしているだろう、と進言しようと思ったタイミングだった。
『specchioと呼ばれるのはもう慣れたか?』
不意に振り返るリゾットに少しだけ驚いて、specchioは立ち止まった。
相変わらず、リゾットは大きい。
自身も同じ黒猫だが、リーダーであるリゾットの体格や風貌には敵わない。
その代わり、フーゴの愛情の賜物でもある毛並みの美しさは誰より一番、とも自負している。
『おぅ。
けど、specchioなんて味気ねぇよな。
そのまんまじゃん。』
『お前自身じゃないか。
良い名前だと思うぞ。』
笑いながら再び歩き始めるリゾットの歩調に合わせて、specchioも歩き出す。
『まぁなぁ……』
まんざらでもないことをリゾットも見抜いているのだろう。リゾットはspecchioの態度に溜め息を吐きながら、世間話とともにspecchioの近況を聞き出しつつ、いつもの分かれ道に出る。
右に曲がればフーゴとspecchioが暮らす高級住宅街、左に曲がればリゾットが住処としている下町がある。
『明日もいつもの時間に。』
『Va bene.』
右に曲がったspecchioの後ろ姿が見えなくなるまで見送って、リゾットは左に曲がって歩き出した。