窓の向こうはすっかり夜。
パトロールから帰宅して、ちょっと昼寝、のつもりだったのに、いつの間にこんな時間になっていたのか、と欠伸をしながら伸びをする。
そろそろ窓辺も寒くなってきたな、と考えながら床に降りて、お腹が空いてきたな、と時計を見上げたタイミングでフーゴの気配を察した。
specchioは急いで玄関へと向かう。
今日の帰宅は19時を過ぎたところだから、いつもより早い方ではあるのだが、部屋に入ってきたフーゴの背後を改めて確認して溜め息を吐いた。
実は、フーゴはよく『何か』を連れて帰ってくる。
リゾットが心配している、そこら辺にたむろしている鈍感で怖いもの知らずのガキどもよりも引き寄せてくるのではないか、というくらい連れて帰ってくる。
フーゴはいつも通りの様子でコート掛けに脱いだコートを掛けているが、その横顔や背中からはだいぶ疲れていることが見て取れた。
そんなものを連れて歩いていれば当然だろう。
実際、何かと恨み辛みを買いやすい職業ではあると思う。けれどその一方で、イルーゾォの記憶では暗殺チームの誰かがその『何か』を連れてくることはあっても、強く影響を受ける程のことはなかったから、結局はこちら側の意識の問題なのかもしれない。
おそらく、チームの誰もが自身のやることに無感情だったのだ。
少なくとも、イルーゾォ自身は殺す相手に個人的な感情を持つことは――フーゴを除いて――一切無かった。あくまでも、自分は指示に従っただけのことでしかなく、そこに自責の念が生じることもないから、『何か』に付け込まれる隙もない。
多かれ少なかれ、メンバーは皆そうだったに違いない、と思っている。
そういう意味では、フーゴはギャングを生業とするには少し繊細過ぎるのかもしれなかった。
ブチャラティチームの身辺を調べている時もポンペイで対面した時も感じたが、フーゴは少し危なっかしい。
specchioは「やれやれ」と溜め息を吐いて、『何か』を見据えた。
今日のヤツは、昼の街中にいたヤツらと同じようにやっぱり大したヤツではないものの、どんなものであろうと、そんなものは周囲にいない方が良い。仮にそれが些細なことだったとしても、『何か』が傍にいる限り、良くないことは必ず起こる。
specchioはフーゴが此方を見ていない隙に『何か』に飛び掛かると、自慢の爪でその影を切り裂いて、残った残骸を鏡の向こうに放り投げた。
フーゴが振り返る。
「どうした?」
specchioは甘えるように甘い声で「にゃあ」と鳴いて、フーゴの足元に寄り添った。
自分の匂いは付いているはずなのだが、『何か』の本番当日に向けて、もう少し強く付けておいた方が良いかもしれない。
効くのかどうか知らないが、黒猫はこの国では魔女の使い魔という身分でも、場所によっては、幸運や魔除けの象徴になっていると聞く――ソルベがそう言っていた――し、昼間のパトロール中に見た『何か』の様子を窺ってみた限りでは、それで十分、威嚇にはなりそうである。
――今夜は温かくして、一緒に寝よう。
specchioが顔を上げると、まるでその案が通じたかのようにフーゴはspecchioを優しく抱き上げた。